ここで遭遇
 険悪なムードの中、食堂入り口がざわつく。
 なんだ、と視線はそちらへむいた。そこにいたのは永久だ。
 永久がここへ来ることはめったにない。くるりと視線を回し、そしてそれは琥太郎達のところで止まった。
 そしてゆっくり、やってくる。
「周防、朝の話がまだ終わってねぇ」
「俺は終わってるんだけど……つか、今それどころじゃない」
「あ?」
「なぁ! お前なんていうんだ! 名前教えてくれ! 俺は隠乃美景! 美景でいいぞ!」
「……んだ、これ。隠乃? これが?」
 侮蔑の視線だった。これが、と疑問を口にする。それは隠乃の者がどんな家で、そこに連なるものをしっているからだ。面白いとも何とも思わない。ただくだらない者がいると、そんな視線。
 嫌悪を隠さない永久の視線に美景はひるんだ。そして一歩、下がる。
 その様子は本能的に下がったのだと思わせるほどだ。
「こ、これじゃねーよ! 俺は美景!」
「蓮、そいつは編入生」
 完結に琥太郎が告げると永久はどうしてこんなにわめいているのかと眉根を顰めた。
 これ以上関わり合いになりたくないと、そんな雰囲気は隠しもしない。
「あー……お前まできたら騒ぎでかくなるだろう……」
「まぁ空気読めないのはいつものことだから、コタ」
「水門、それは俺のことか」
「うん、おまえ以外誰が?」
「おい……そこでもめるな、ストップ」
 からかうような青風の言葉に永久は反応した。煽って遊んでいるのがわかる。だからこそ止めた。永久もまた、そうであることをわかっているのに乗ったというような雰囲気だ。
 どうしてこうも、問題ばかり起こそうとすると琥太郎は思う。
 その間も美景はずっと、騒いでいた。
「……で、お前は何しにきたん?」
「お前を探してたら、ここだと聞いた」
「あー……お前、しつっこいなぁ……」
 言わんとすることは、食堂に来て最初に言っただろうという雰囲気。それは、朝の続きをということなのだと琥太郎は察する。
 けれど、今はその相手をしている場合ではないのだ。
「ここでする話じゃない」
「だからしてんだよ」
 嫌がらせか、と琥太郎はため息をついた。そしてわかった、と短く返す。
「お前のしたい話はちゃんとしてやるから、今は帰れ」
「コタ」
 どういうことだ、という青風の声色にあとでと目配せひとつ。
 それにふ、と鼻で笑って永久は去っていく。それで、ざわついていた食堂も少し静かになった。
「〜〜〜〜っ!! なんなんだよ! 俺を無視すんな!」
 と、思ったけれどまだ終わりではない事を思い出す。
 琥太郎はひとまず、飯を食えと促す。と、視線めぐらせれば自分へと向けられている視線があることに気づいた。
 それを負えば、美景の座った席の隣、からだった。
「……なんだ?」
「イインチョ、カッコイーと思って!」
 へらり、と笑みを浮かべた少年は美景の世話をしつつも視線外さない。
 ピンクのメッシュはいった髪をヘアバンドで抑える、幼さのこる表情は屈託ない。
「何があったか教えてもらえるか?」
 そして此処に始終いたのならわかるだろうと訪ねた。それにいいけど、と少年は言うがでも、とふった。
「でも、インンチョが俺とオトモダチになってくれたら! かな!」
「……また変なのに好かれたな」
 ああ、と青風の言葉に頷いて琥太郎は彼等の前の席に座った。


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