師団対抗戦【りくえすと】
【第七師団の破壊活動と回りの人たちの反応】というリクエスト、改。


 師団対抗戦とは!
 ヴェイルラントのそれぞれの師団よりえりすぐりの師団長含め、五人を選出しその知識、技量、運の全てを競う由緒正しき行事なのである。
 そしてこれは人々にとってもお祭騒ぎとなるのだ。そんな祭を、楽しみにしないわけがないのだが。
「でも、キアティスはでちゃダメ」
「えー。親父いいだろォ、たまには俺も出たい」
「ダメ」
 というのも、初参戦時に色々やらかして、お願いです出さないでくださいという懇願があるからだ。ほかの師団から。
「オトウサマ」
「気持ちわるいな!!」
「オトウサマ、オ・ネ・ガ・イ」
 その気持ち悪い攻撃にイシュドラは結局負けた。
 そして当日。
「あ、ほんともう胃がいたい……」
「わたしもつらい」
 出場するのはキアティス、ギアルト、ナルヴィ、シノ、アイーダ。
 やらかすメンバーである。くじ引きでメンバーを決めた結果がこれだった。
「ほんと、運って重要だなァ」
 きっとこれから何かが起こる。そう思ってサイラードとジュリアは書類を書く準備を始めるのだった。
 師団対抗戦のルールは簡単。
 帝都の端にあるスタートから、街中にあるいくつかのポイントを素早く通過し城に一番に入ったところが勝ち。しかしそれは五人全員が通過してはじめて、ゴールになる。
 ちなみに妨害は色々有りだ。ペイント弾のみの使用が認められており、半身以上色がついた者は脱落となる。
 しかし。第七師団に限っては、攻撃は許されていない。仕掛けられた時のみ、防衛していいというルールになっている。さらにキアティスは精霊の召喚がイシュドラによって内々に禁止されている。借りるとチートだからだ。
 そして第一から第六師団の者達は、協力して第七師団に勝つことを目標としていた。
 なぜなら毎年、第七師団が優勝を持っていってしまうからだ。あまりの偏りに彼らもまた日々腕を磨いているのだが一段上の行動をとるのが彼らなのである。
 そしてスタートの報せに空砲が撃たれる。
 一斉に走り始めた参加者たち。けれどスタートに第七師団は留まっていた。
「ハンデは必要だよなァ」
「っす。あと5分くらいは余裕で」
「罠しかけてもらう時間も必要よね」
「わーい! 爆破爆破! 爆破がいいな!」
「今年はどうなっかなー」
 10分ほど経過した、そこでやっと第七師団は動き出したのだった。



 街を悠々と歩む。急ぐそぶりなど何もない。
「あ、第一ポイント! 誰もいなーい」
 きゃきゃ、とアイーダが笑って先を行く。その瞬間だ、人垣の間から銃口が向けられた。ばしゅっと放たれたペイント弾だったが、それをアイーダの精霊が叩き落とす。
 それが開始の合図と一緒だ。
 飛び掛かってくる者達の姿があった。
「アイーダ、下がんな!」
 楽しそうな声と共に走ったのはナルヴィだ。地に手をつけ、その下からかかってきた者達の腹をめがけ蹴り上げる。容赦ない一撃に飛び掛かった男はむせながら空に弾かれた。さらに容赦なく、上から。
「うちの御嬢さん狙ってんな、よ!!」
 拳を合わせ振り下ろす。一足、地を蹴ってギアルトが飛んだ。背中に打ち下ろされたそれもまた容赦などなく男は地に落ちるばかりだ。
「一人、戦闘ふのー!」
 意識はすでにない。見ていた観客達からは鮮やかと歓声があがる。これでいずれかのチームはすでに優勝はできない。
「みなさん騙されてますね、あれフルボッコなのに」
「派手さ優先だろ、こういうのはよォ」
 キアティスは笑って、進むぞと言う。一つ目のチェックポイントはペーパー問題が用意されていた。
 それをちゃちゃーっと片づけたのはシノだ。簡単と笑って一つ目のポイントはクリア。
 その次のポイントは川だ。橋は通行止め、代わりにい丸太が一本かかっていた。
「ここで勝負だ! キアティス殿!」
「え、めんどう」
 その丸太の上に立ちふさがる一人。めんどうというキアティスの代わりにナルヴィがそこに立った。その手にはすでに銃と剣が握られている。
「うちの大将が自分の出る幕じゃねぇってさ!」
 ゴーグルをきゅっと目元に下ろす。不安定な丸太の上、勢いつけて突進をかける。
 対した男はその突進を受け止めた。だが腹を掴まれバランスを崩す。ナルヴィはその男を向こう岸へとそのままの勢いで運んだ。
 そして、そこに待ち受けていたのは。
「おわ! ちょ!」
 パンパンと音立てて放たれるペイント弾。男を盾にし、ナルヴィは四人の男からの銃撃を防いだ。
 けれど一つ、左肩のあたりにべっとりピンク色。
「うわー」
「よけれないなんてとろーい」
「そうね、とろいわ。ここは私にまかせてね」
 うふふ、と笑いながら前に出たのはシノだった。しゅるんとその腰の後ろから取り出したのは、鞭。
 っぱぁんと地面をたたく軽やかな音。
 鞭と銃、強いのはこちらだと思ったのだろう。勢いよく放たれるペイント弾。それを軽やかにかわしてシノは微笑む。
「ふふ、戦えないと思ったら大間違いなのよ」
 鞭が跳ねると同時に数人がまとめて転がされる。手から銃を弾き飛ばしたところでシノは横に飛んだ。
「キア様!」
「おーよ」
 両手に一つずつ、銃。一か所にまとめられた者達はその銃弾を受けた。連射されるそれは的確に急所ばかりを染めていく。
「ペイント弾で良かったなァ」
 そして次のポイントでもほかの団員の攻撃をギアルトが薙ぎ払いとゴールへと近づいていく。
「どっかはこっちに目もくれずゴール目指してるかもな」
「でもゴールしたらぱーんて花火あがるじゃない?」
「てことは今年も、最後の最後で待ってるって事か」
 今まで倒したのは3つの師団だった。しかし、そのうちの一つは1人だけ。
 あと残っているのは2師団と、4人ということだ。
 おそらくゴールの城門前、色々な策を巡らし待っているのだ。
 速さだけではいけない。第七師団という常勝師団を倒してこそ、と思っているのだ。
 そしてそこにギャラリーも集まっている。
「お前ら、最後は何もしなくていいぜ」
「あ、キア様が全部やります?」
「俺がいるんだから俺とやんなきゃなんねェだろ」
 城、半壊くらいに抑えとくかなァと不吉な言葉を紡ぐ。けれど師団員たちは楽しそうに笑うだけだ。
「どーんしますか、どーん!」
「おー」
「でも精霊ダメダメって言われてましたよね?」
 どうするんですか、とシノが問う。
「精霊はダメつって言われてるが、魔術がアウトとは言われてねぇ」
 あ、何かやる気だ。下がってよう!
 そう、四人は思った。



 その頃城門前では二つの師団、そしてひとり失ったことを知らぬ四人が構えていた。
 ゴールである城門の奥ではイシュドラが見守っている。
 が、お前らなんでゴールしない。わざわざキアティスの遊び相手になる必要はないというのに!
 と、にこにこしながら思っていた。
「……あれがやばいのはわかっているだろうに……」
 そこにはほかの皇位継承者達も座っている。父の言葉にカルディウスは苦笑していた。
「兄上、仕方ないでしょう」
「そうは言ってもな、アイジス」
 あれはやらかすのだ、と少し顔は青い。嫌な予感しかしない、と。
 そしてその予感は的中する。
 門前に現れたのはキアティス一人だ。周囲の観客達は湧き上がる。
「キアティス殿、おひとりで14人を相手されるか!」
「おー、するする。軽く遊んでやるから、かかってこいよ」
 言って、両手に構えた銃。それより放たれるペイント弾は最初に向かってきた四人を次々仕留める。相手方から先に向けられた攻撃をよけてから、それは行われた。
 先制攻撃はダメなんだろう、と笑う。それは約束は違えていないという確認でもある。
 その最初の四人の次はレイピアを持った二人、そして剣の三人だ。
 左右からタイミングをずらして振り下ろされたそれを銃身で受け止めた。その瞬間、後方に気配だ。回り込んだ一人が振り下ろす閃きが見えた。
 が、わかれば反応はできる。少し重心をずらしわざと態勢を崩した。そして前のめり、地面に手をついて足を振り上げる。
 顎下を的確に蹴り上げ、ぐらつかせる。正面からレイピアでの突きが見えれば、転がってそれを交わした。
「たのしそー。私なにもしてないよぉ」
「アイーダ。それでも離れているのがお利口さんよ」
「そうそう」
「巻き添え食わないためにもな」
 その、少し後ろ。
 楽しそうに遊ぶキアティスの姿を四人は眺めていた。
 そして、そろそろ頃合いだろうと周囲の人々に退避すべく声をかけ始める。
「はいはい、もうちょっと後ろさがって。城門あたりの人に声かけて離れるよう言ってあげて」
「一応守るけどね! みんなは怪我しないようにするけど」
「角度的にはその辺に飛んできそうだから、ナルヴィ防御」
「うーっす」
 そんな避難行動を促す言葉。それを聞いていた参加していない師団員たちもさっと顔色を変え周囲の人々を避難させていく。
 そしてそんな様子は、城門の奥からはよくわからないわけで。
 かかってきた五人と遊び終わったキアティスは両手に持っていた銃を放り投げた。
 そして右手を、城門へ向けて掲げる。
「……え?」
「皇帝陛下ァ、いつも俺をはぶってるからこういう目にあうんだぜェ?」
 ニィと口端あがる。キアティスの右手を取り囲む光輪は白。それが収束してゆく。
 それをみた残る対抗戦参加の師団員達は顔色を変え、防御魔術を紡ぎ始めた。
 急いで編上げられる術式に固き透明の壁が城門を守るべく作られていく。
 それは二重、三重とだ。
 さすがにその慌てたような防御態勢の様子は城門の中からもわかった。
「……俺逃げておこうかな……」
「私も」
「私も非難を」
 お腹痛い、とか体調がといいながら皇位継承者は離れ始める。イシュドラは嫌な予感が当たった、と頭を抱えた。
「本当に、我が息子ながらあれは! どうしてあんなふうに育ったのか……!」
 そしてそれを先回りし、傍で見ていたサイラードとジュリアも頭を抱えた。
 ごめんなさい、すみません。本当に申し訳ないけれどあの人を止める事はできないのです。
 そんな部下の心を知ってか知らずか。知っていてももちろん、止めるはずもなく。
「遅ェよ」
 けれどその手より放たれるものの方が威力があった。
 壁を突き破り、城門の一部にぶち当たった光弾。それは轟音と共に爆ぜた。
 がらがらと崩れていく城門の一部。そのあたりの退避はすでに終わっており、人々に被害はない。
 だがしかし。
「ひけ! ひけー!」
「城門が、城門がー!」
 がらがらと崩れてゆく。城門の半分が崩れ落ちたのだ。その中を悠々とキアティスは歩いていく。
「ほら、お前らもさっさと来い。勝てねェだろうがァ」
 その途中、足を止め後方で控えていた団員達を呼んだ。
 その言葉にわぁいと最初に駆けたのはアイーダ。それにナルヴィとギアルトが続いてシノが最後だ。
 あえて、崩れた城門を上る。その一番高い位置に立ってキアティスは周囲を見渡した。
「は、やっぱ高ェとこはいいな。バカ面が良く見える」
「サイラードとジュリアが死にそうなのもよく見えますよ」
「まじか、どこだ!」
 嬉々とした声でギアルトが示した先を見る。この状況を収拾しようとしている者達を高みの見物だ。
「あー。すっきりした。いつも俺ハブって楽しそうな事してっからこーなんだよ」
 そう言ってキアティスは満足そうに笑った。
 もちろん、この後でお説教がイシュドラより行われた。説教の内容は右から左である。そして城門の修理費用もキアティスもち。
「本当に、お前は人に迷惑をかけるのが好きだな。それは直せとどれほど」
「は? 別に人死んでないし。見に来てたやつらは派手で楽しんでただろ」
「そうだな。民はな。民にとっては楽しい見世物だっただろう。だが迷惑をかけられるこちらはな!」
 そんな終わりのない問答が一晩、続いた。




という感じでした!
師団というよりやっぱりキアティスの破壊活動という…
師団面子はそれでも、色々楽しんでいます。
当事者は白目。周りからみてると楽しい。
そんな感じなのでした。


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