甘い甘い
 その考えが甘かったことを知るのは登校してすぐだった。おはようございますと挨拶した教師から、今日もう一人の編入生が遅れてくると教えてもらったのだ。
 それを聞いた瞬間、琥太郎は真顔で携帯を取り出していた。
「あー、もしもし? 青風さーん、きんきゅーじたい」
『あー? なにー?』
「隠乃美景、今日」
『……おやすみー』
「寝るなー、まだ何も考えてねーのに!」
 電話向こうの気の抜けた声。何があるのか理解して青風が逃げていることをすぐ理解した。
 けれど、本当に見捨てるような友人でないこともわかっている。
『あー……とりあえず、そっち言ってから聞く……』
「うん、早く来て。俺めげそうだから」
 はいはーいとのんびりした声を最後に会話をやめた。
 このことは一応、時陽と捺時にも伝えておくべきか、と連絡する。きっとまだ寝てるだろうから電話をかけても出ないことはわかりきっているのだ。
「あとはー……風紀にも全員と」
 そうして送り終わると同時に捺時からの返信があった。律儀だなぁと思いつつ琥太郎はその返信を開いて文面と添付写真を見ると同時に固まった。
 写真の端の端、映っているのは本当に顔半分かすかにといって良い程度なのだが、この顔には見覚えがある。
 昨日見た顔だ。
 つまり、あれが隠乃美景ということが、確定した瞬間。
「…………俺の顔、覚えてなけりゃいーんだけど……」
 不都合な事は忘れてくれているといい。そう思った、切実に。
 教室でため息交じりに座っていれば友人たちがやってくる。そうすると佐和もまたその話を聞いていたようで、迎えに行くことになったと零した。
 その瞬間、琥太郎は過剰反応した。
「佐和、おま、それっ、本当か!?」
「え、うん。その反応だと何か、ある?」
「ああ……隠乃美景は、やばい。俺昨日、遭遇しちゃってさー」
 ということでかくかくしかじか。
 あったことを伝えればとても、微妙な表情を佐和もまた浮かべた。
「うーん、うまくあしらえるかなー……」
「王道展開キタコレ! とか思ったけどそうじゃないっぽいな、残念。まぁ俺は昨日もらったこれがあるからいい」
「まさやんそれ削除して!」
 話をしていれば雅哉も良いタイミングでやってきた。携帯を開き、見せてきた画像。
 いい感じに自分の顔が死んでいる写真のインパクトは思っていたよりもでかかった。
「雅哉的にこういうのってどう攻略したらいいと思う?」
「教えてほしいか?」
 ふふん、と上から目線。けれど、琥太郎と佐和はこういう件に関して雅哉の言うことが的確であることを一年の間に学んでいた。
「是非教えてください」
「お礼ならあとでするよ」
 その言葉に雅哉の目はきらりと光った。その言葉に偽りはないな、と。
「相手にしないのが一番だと思う。けどそうもいかないか」
「それ攻略でもなんでもない」
「話を聞かないなら根気よくこんこんと言い続ける。か、逆に言ってることの揚げ足とって黙らせる」
 それと、きっとこうなると雅哉は言って見せた。
 名前を教えろという。そして自分の名前を呼べという。それでもうオトモダチのつもりになるだろうと。
「この方式をどう使うかだと思う」
「そんなこと言うのか……すげぇな」
「ありえないねー」
「ちなみに、テンプレ流れとしては笑顔を浮かべたお迎え副会長にその作り笑い気持ち悪い、俺の前では無理しなくていいんだぜ。とかいって、副会長はこの子は僕のことをわかってくれているとう感じでKOIに落ちます」
「それもっとねぇな……」
「ごめん頭痛する」
 そんなキャラの人を迎えに行かなければいけないのか、と佐和は一つため息ついた。
 同時に隣で、そんなやつが事件を起こすのか、と琥太郎もため息をついていた。


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