ピンチとたまご
 部屋の外にまだ気配がある。自分が出てくるのを待っているのだろう。しつこいなぁと琥太郎は舌打ちする。すでに身支度を終え、腹が鳴りそうな琥太郎は限界だった。
 無理やり、知らぬ存ぜぬで通り抜けるかと心を決めた。いつまでもここにいても何にもならないからだ。
 部屋の扉をあけるとゆったりくつろいでいた永久から視線がすぐさま、向けられた。
「お先ー」
 視線合わせず一言だけ落として部屋をでようとしたが、やはり捕まった。
 腕を掴まれ、その歩み止められる。そして至近距離。
 見下ろされるような恰好に琥太郎は、歯噛みした。
「お前、ロウなんだろ。なら、そこに小さいやついるだろ、元気でうるさくて生意気なやつ」
「あ? いねーよ」
「いるだろ」
「いない。ウソだと思うなら青風にでもきいてみな」
 ああああ、やっぱり覚えてる! 探してる!
 そう心の中で琥太郎は叫んだ。その事実を知れたことは良かったかもしれない。
 今まで探してる、かも程度の認識だったが本人の口からきけば確定だ。
 どうなのか知っているはずの佐和も今までどうだろうねとはぐらかしていたが、これは知っていて教えなかったにちがいないと思う。
「手ぇ放して。俺、腹減ってるから食堂行きたい」
「……いつか吐かすからな」
「吐くことなんて何もないんすけど……」
 行け、と永久は手を放す。何様だ、と琥太郎は思いつつそれを飲み込んだ。
 同室である限り、重ねて何度も問われそうだと思う。実際、永久自身も何度でも聞く、問い詰めようと思っていた。
 何も言わず、踵返して琥太郎は部屋を出た。
 なんなんだ、と朝からイライラしてしまう。イライラするほどの事でもないのだが、気持ち悪さが胸の中に残るばかりだ。
「あー……これ毎朝続いたら胃に穴があく……」
 胃のあたりをさすりながら、琥太郎は食堂に入った。自分がいつも使う時間より少し遅い。いつも自分と同じ時間に食べている者たちが、今帰っていく時間だった。
「いつものー一つおねしゃーす」
「はいはい。今日ちょっと遅いねー」
「色々あってー」
 食堂でその腕ふるうおばちゃんとは顔なじみ。琥太郎は声かけて笑いながら食事を受け取る。いつもの調子が、少しずつ気分を浮上させていた。
 そしてさらに今日はテンションあげるべく、温泉卵一つ追加した。いつもは頼まないのだが、なんとなくリッチな気分にならないとやっていけないと判断したのだ。
「卵ひとつでテンションあがんのもどーよって感じだけど。お手軽な俺万歳」
 トレーにとったいつもより一品多い朝食。眺めるほどにご機嫌になってくる。
 琥太郎はいただきます、と丁寧に言ってその朝食に箸をつけた。
 腹を満たしながら今日すべきことをいくつか頭の端にあげていく。
 親衛隊持ちの者と話をすること、親衛隊の隊長と話をすること。一年から風紀としてめぼしい者を見つける事。
 あとは、隠乃美景対策を考える事。
「あれ、いつからくるんだろ……」
 そういえば、そんなことまったく知らないなぁとぼんやり思う。
 今日明日ということはないだろう、と踏みつつ琥太郎は朝食を食べ終わった。


prev next


top

main

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -