寝起きハプニング
 昨夜、部屋へ帰ってくれば同室者の気配はなかった。それを気にとめず琥太郎はそのまま眠りにつき、目覚めとともにしまったと舌打ちした。
 髪の色がそのままだ。これを落とさなければどうにもならない。そっと扉を開ければ、まだ永久は活動していない。
 チャンスとみて琥太郎は急いで用意をして脱衣所に向かう。そしてまず最初にシャワーで髪の色を落とした。
 ざーっと流れていく水の色が青い。完全に落とし終わって、水滴払うように頭を振った。
「あー……にしても、昨日の……頭痛くなるわー」
 思い出したのは隠乃美景、と思われる人物。あんなのと毎日対すとなれば心労はとぞっとした。
 ばしゃばしゃ落ちる水音にため息混ぜ、琥太郎はシャワーを止めた。
 そして脱衣所に出よう、としたのだが。そこは兼、洗面所でもあって。
「……おはよーさん」
「はよ……」
 少しだけ扉を開けてタオルをとるそのついでに声をかけた。そこにはぬぼーと寝起きのままの永久がいたのだ。
「あー……気付かなかった、すまん」
「んー、別にいい」
 そうか、と短く返して永久は出ていく。正直、びびったと琥太郎は胸をなでおろした。寝ぼけているそんな姿は初めてなもの。
 というか、こうして朝、遭遇したのがまず初めてだった。
 琥太郎は身支度整え脱衣所から出ると、共有スペースたる場所で永久は寝ていた。
「……爆睡かよ。おーい、蓮よー、起きろー」
「……あ?」
「あ、って、おい。寝るな、寝るなー」
 どんだけ寝汚い、と琥太郎は笑った。いつも不機嫌そうに人の前に立つ男の別の一面にほだされそうになりつつ、琥太郎は永久をゆすり起こした。
「悪い、手をかけた」
「おー、気にするな」
「……眼鏡、は?」
「へ?」
 そう言って寝ぼけたままの永久が手を伸ばす。琥太郎の前髪を掻き揚げ、その額と目尻さらけ出した。
「え、何?」
「…………お前、ロウ、か?」
「あ、うん。あっ」
 バカ正直に答えて、しまったと思った時にはもう遅い。
 永久もまた瞳見開いていた。それは自分の言葉によってやっと覚醒したようで、驚き半分といったところだった。
「いやいやいや、なんかよくわかんないから頷いたけどなにそれ俺しらない」
「ウソが下手だな」
「うぁぁ……」
 距離をぴっととって、琥太郎は冷や汗拭う。これ以上一緒にいたらおそらく、もっと根掘り葉掘り聞かれるに違いないと悟った。
「じゃ、俺準備あるし!」
「おい、話はまだ」
「俺はねーよ!」
 言い放って扉を乱暴に閉めた。
 扉の外、まだ何か言いたそうな雰囲気感じつつ、琥太郎は墓穴掘ったと頭を抱える。顔をあわせれば聞かれるに違いないと確信がある。
 うまく逃げきる自信は正直なかった。


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