ファーストコンタクト
 捺時が倒れた。それは酒の力によって眠りに落ちたからだ。それによってやっと、琥太郎は解放される。
「うおおお、捺時まじ許さねー。明日からこき使ってやる……」
 ぎっと睨み、どさりと琥太郎はソファへと座り込んだ。
 そこへほい、と差し入れされたのは牛乳だ。琥太郎はそれしか飲まない。1センチの為という切実な理由で。
「あ、アイスクリームない。ちょっとだれか、コンビニに行って来てくれないか?」
「俺が行くー。おつかいあるし」
「じゃあ俺も俺も!」
 青風がマスターに向かって手を上げる。すると琥太郎も行くと手をあげた。二人がいくなら任せたと、他は悠々と過ごす。
「あ、ついでにラテの緑のやつ買ってこーい」
「うーっす」
 カウンターでマスターと話していた奏太が500円投げる。釣りはいらない、とっておけとふざけながらだ。
 アイスクリームのほかに少し、入用のものを教えてもらい二人は店を出た。コンビニは一つ角を曲がった先。けれどそこに辿り着くまでにある細い路地裏で、怒鳴り声、喧騒の音が響いた。
「青風ェ……つか、セイ?」
「お前の言わんとすることはよーくわかってる、ロウ」
 喧嘩があるなら、殴りこむのみ。それが片方に力偏ってるなら尚の事。というのは建前で単に暴れたいだけ。
 夜、あの溜まり場たる店以外では、こうして喧嘩をする時は本名も、馴染んでいる呼び方も使わない。
 青風はセイ、琥太郎はロウと呼ばれている。琥太郎の場合は、昔はコタだったのだが紅蓮サン対策で皆に変えてもらったのだが。髪を掻き揚げ額出せば、少し垂れた目尻が好戦的な色に染まる。セイはフードを目深に被り、その口元に笑み浮かべた。
 どちらともなく先に路地裏へと殴りこむと一人が複数に囲まれている。というよりもいた、と言ったほうが正しかった。その足元には何人も倒れていたからだ。
 それをやっているのは一人。金色の髪の少年だった。
「うっせーな! そっちがぶつかってきたんだろ! 謝れ!」
「この、ガキ……! がッ!」
「いう事きかねーからって暴力振るうなんて最低だ!」
「……手ぇ出したのあっちが先だよな……」
「だな」
 それゆえ、二人の足は止まった。というよりもなんとなく、本能的にこれには近寄らない方がいいと思ったからだ。
 二人視線合わせ、すぐ立ち去ろうとしたがそれよりも早く、先の少年がこちらに気づいたのだ。
「あ! お前等もこいつらの仲間か!?」
「え、いやー……」
「俺たちは……違う。っつーか、騒ぎ聞こえたもんで助けにー、と思ったんだけど」
「ウソだ! お前等も仲間だろ!」
 なんだその論理はとロウは口の端ひくつかせた。
 そして走り向かってくる少年が殴りかかってくるのをロウとセイは避けた。
「どーすんよ!」
「逃げるが勝ちだろ」
「! 避けた!? 逃がさない!!」
「う、わっ!」
 逃げよう。そうしたところへまた一撃。それに反射的に、ロウは対していた。
 懐に入り込んでそのまま足を払う。少年はバランスを崩しながら足を振り上げていた。
 喧嘩慣れしているのか、していないのか。勝てる、と思ったロウはその足を掴んで少年を引き摺り倒し押さえ込んだ。
「落ち着こう、な!」
「っ! お、俺今まで喧嘩、負けたこっ、なかっ……」
「えっ」
「何で泣いてんのそいつ」
「うわあああああああん!!!」
 えええええ……とロウとセイは思う。関わったのは失敗だった。これはこのまま、泣いている間にそそと退散した方が良さそうだと。
「あ、あのな。別にお前と喧嘩しようってわけじゃなかったからな。お前が向かってきたから仕方なく、で! あー、もう……怪我はないから許してな、じゃっ!」
 そう言って、泣く少年を放置して、二人は向かおうとしていた店と逆方向にあるコンビニへと向かった。
 なんあんだあれ、と反芻しながら。
「俺、顔みられたかなー……暗かったし大丈夫だよなー……」
「はっきりとはわかんないだろ。とりあえず青い頭はしばらく無しだな」
「だなー」
 ぽぽいと買い物籠に頼まれもの入れながら、二人の買い物は終わる。
 そして先ほどあったことを、帰って皆に話せば激しく反応した者が一人、いた。


prev next


top

main

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -