夜のおでかけ
 隣の部屋のチャイム鳴らし、出てきた佐和と話しつつ。
「青風テメェ知ってたな先に言えよバカ!!」
「えー?」
「笑って誤魔化すなァ!!」
 リビングでへらへらと笑っている友人へと琥太郎は声を上げ、そして佐和に煩くてごめんと謝る。
 構わないよと小さく笑いながら佐和は何を飲むと聞いてくる。それに琥太郎は牛乳と一言。
「まー、会わないようにしてたら大丈夫だろ。わかんないよ、コタ」
「確かに、一緒に仲良くする気なんてお互いないからな。あいつ絶対朝起きての挨拶すらしねーぜ。起きる時間とかずらすわー。部屋帰ってもどーせ篭るしな」
「ばれたら面白いのにー」
 牛乳渡しながら言う佐和に冗談でもやめてくれと琥太郎は半笑いだ。抱きつかれたり、おさわりされたり。勘弁してくれと。
「と、風呂場貸して。塗るから」
「スプレーと言え。やってやるし」
 今日は青。髪の色を染める。普段かけている眼鏡は外す。もともと、それに度は入っていないのだがミニ変装道具で使っているのだ。
「にしても。本当に永久はおバカだよね。僕なんてすぐ気づいたのに……」
 風呂場で髪を染める二人に佐和は言う。どうしてわからないのだろうと。声も基本的に変わっていない。それに何より、挙動も少し大人しくなった程度だ。
 そして、隠乃時陽が構うとすれば誰かというのは絞られてくるというのに。
「紅蓮サンは俺に夢でもみてるんじゃないか。チビで生意気で突っかかってくることが面白かったんだろ」
「こら動くな」
「はい」
 首を佐和のほうへ動かそうとしたところを青風に阻止される。それからは視線だけ合わせて話を続けた。
 佐和もまた、永久の、紅蓮の下で夜遊びをしているのだ。顔をあわせるようになったのは高校に入ってからがほとんど。
 それでも、髪を染めて髪型を少し弄って眼鏡を外している程度。毎日顔をあわせていたのだ、すぐにわかったという。
「あ、そいえばさっき、うちも出てこれるやつは出て来いって連絡きてた」
「へー……えぇぇぇ……紅蓮サンも出てくんのー?」
「お前、何か言っただろ。と、もういい、できたー」
「さんきゅー。うわ、まっさお。青いん久しぶりだな」
 鏡の中の琥太郎は別人のようだ。髪色一つで、がらっと雰囲気が変わる。
「で、佐和はいくの?」
「今日はやめとく、眠いし。あ、コンビニよるならなんか新製品買ってきて。甘いの」
 そんなお使い一つ受けおって、琥太郎と青風は外に出るべく寮から出る。
 別段山奥にあるというわけではないこの学園は気合去れば繁華街まで降りられる。学園の外にでれば似たような者ばかりだ。
 風紀室で見た面々が、溜まり場である店に行けば多々いる。もちろん風紀に入っていない者もいるのだがそれはわけあってだ。
「おせーよ」
 店の最奥。
 そこにある一等上等なソファーに座って金獅子こと、隠乃時陽はご機嫌だった。
「センパーイ、今日の召集はなんすかー」
「え? 歓迎会」
「俺の、いぇーい! やっほー! あはははー! 兄貴さんくー!」
「……ということだ。おいこら捺時、テメェおにーさまの頭叩いて上等じゃねぇコラァ! つか酒いれたな!?」
 捺時のテンションが高い。そしてほんのりによによし、ご機嫌。チームの皆はこれは酒が入った顔だと知っていた。そしてそうすると厄介なのも、知っている。
 知っているからこそ、誰も酒などいれようとは思わないのに。
 少量でも、一口分でもだ。
「誰だこのバカに酒いれたの!」
「あ、すまん。ちょっとブランデーはいったケーキくったみたい」
「マスター……!」
 うっかり、うっかりなんだとこの溜まり場のマスターは言う。困ったことをしてくれた、とばかりの避難の視線。
「コタ、お前こいつの世話しとけ!」
「ええええええ……」
 がっと首根っこ掴んで時陽は捺時を琥太郎へと押し付けた。へらり、と笑って捺時は小太郎をぎゅっと抱きしめ擦り寄ってくる。
「コーター、うはははは」
「うおおお、やめろおおお俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味ねーんだよおおお」
「げふっ! コタのらんぼーものぉ!」
 ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられるのを琥太郎は耐えた。けれど、あとで何かしらの報復をと思いつつ。
 ひとしきりはしゃいだ捺時は琥太郎を抱えたまま椅子に座る。つまり、膝の上に琥太郎が乗っているということで。
「……こっち見んな」
「はいちーず」
「青風ェ!!」
「もう遅い、雅哉に送ったー」
 うわああああ!! と、琥太郎は絶叫する。それをネタに明日、絶対弄られるとわかっているからだ。
 きっとそれはもうねちっこく、何かなかったのかと。答えは何もないしかないのだけれども。


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