「とりあえず、大人しいキャラじゃないのがわかっただけ良しとしよう」
「あとは風紀で対策考えるかー」
捺時からの情報。それをもとに皆から意見を聞こうと琥太郎と青風は決める。おそらく時陽は逃げるだろうから頭数にはいれない。
そして、篝へもまた注意しておくように含んだ。同じ編入生とゆうところで絡まれる危険があるからだ。
「あ、同室はどんなやつ? イケメンなら俺に連絡ちょーだい。風紀室きたらいるから。もしくは担任に伝言でもいいよ」
「なんでです?」
「イケメンと同室で、そいつに親衛隊できるなら話は早いほうがいいだろうから」
経験上、と琥太郎は笑う。一年過ごして見切ったパターンなのだと。
結成の初手が成功と失敗の分かれ目。崩れたものを立て直すには相当の努力が必要なのだ。
「捺、お前も親衛隊できるだろうからしっかりやれよ。わかんないことあれば風紀室に親衛隊作成マニュアルあるから」
「え、コタ本当にマニュアル作ったのか?」
「作った!」
いつの間にと青風は苦笑する。常々作ると言っていたがここで登場するとは思っていなかった。
親衛隊作成マニュアル。それはここ数か月をかけて琥太郎が作っていたものだ。口で説明するのはもう面倒くさい、読めということで。
風紀的、良い親衛隊、悪い親衛隊の分類から始まりどんな隊長があってる診断まで。何パターンかおすすめ作成過程まで記してあるとても優しいマニュアルである。
「安城寺君、困ったらなんでもいーから俺に行ってきな。解決できるよう手は貸すし」
「そうそう。何かあったら風紀室にかけこんでおいで。誰かは親身に話聞いてくれるから」
当たり外れはちょっとあるけど、と青風は続けて笑う。
そのなんだか緩やかで、柔らかな雰囲気に篝はほわりと笑みを浮かべた。今まで表情変えず、ずっと頷きつつ聞いてきたのに不意打ちのようにだ。
「あー、こりゃあげちゃんコロッと行くわな……」
「上松?」
青風のどういうことというような声色に後で話すと琥太郎は苦笑した。
「ま、今日のとこはこんなもんで。式があって疲れたとこに長々とごめんな」
「いえ、色々知れてよかったです。ありがとうございました」
「捺時、寮まで送ってあげて」
「おー」
一年二人を見送って、静かになった教室。
しばらく琥太郎と青風は沈黙していた。けれど、思っていたことは同じだった。
「隠乃美景、相当ヤバそじゃね?」
「ヤバイだろ。想定よりヤバそう」
「あー……あのさ、もしかして、時陽」
隠乃美景がくるのわかってたから、委員長、俺に押し付けた?
ぽつりと琥太郎が落とした言葉に青風は何も言えなかった。その通りな気がしてならなかったから。
「あー! やっぱりそう思うよな! さっき話聞いてあれーって思ったんだよ!」
「どんまい」
「……決めた」
しばらく黙り込んだ琥太郎は呟く。その瞳には確かな意思が伺えた。
青風はただ、琥太郎が紡ぐ言葉を待つ。何かを決めたならやりぬく事は知っているからだ。
「隠乃美景は俺がまともにしてみせる」
性格すら直してみせると、琥太郎は燃えた。
「コタならできそな気もしないでもないんだけど……でもなぁ、逆に」
懐かれて地獄を見そうな気がしないでもない。青風は胸中に少し、不安を抱えた。けれどもう、彼が決めたのならば何を言っても無駄だという事もしっている。
「まー、会ってみないとわかんねぇよなぁ。結局は、前情報あってもあれーてこともあるし。そのパターンになりそうな気がする」
けれど、心の準備くらいはできるから、と琥太郎は笑った。
そしてぐだぐだと、そのまま二人で話していれば携帯が震えた。二人同時にだ。
それはアプリに通知があった知らせ。みれば、同じ内容がある人物から全員へと向けられていた。
「おっふ……」
「どしたのシシサマ不機嫌じゃん」
それは久しぶりの、とでも言うのだろう。
隠乃時陽としてでなく、金獅子としての号令だった。
「つか、俺はチーム入った覚えねーんですが……まぁいっか」
「あれじゃね、客将とかそんな感じ」
「ナニソレカッコイイ! 髪、スプレーしないと」
気分転換みたいなもの、と青風は笑った。
夜の街、皆で遊びに出るのは久しぶりだ。こういう夜の外出については学園は甘いなぁと琥太郎は思うのだが、自分もそうであるので何も言えない。一応、決まりはあるのだが見て見ぬふりをしてくれている。
それは逆に、信頼でもあるのだなとも思っている。問題を起こすほど危険なことはしないだろうという事の。
「てか、本当会長気づかないよな」
「気づかないな」
中学時代、勉強に入る前、何度か殴りあって話したその姿で固定されている。高校に入って、身長伸びて何度かまた、殴りあっているというのに。
「155の俺と、今の俺と……はともかく。俺と、ロウが結びつかないの不思議」
紅蓮サンまじ鈍感。
そう言って琥太郎は笑った。