もうひとりの
 一番上に理事会。その下に隠乃景樹と琥太郎は書く。理事会は何人もメンバーがいるが、基本的にこの学園に常駐、とまではいかずとも必要あればいるのはこの人だと。
 そしてその下に『生徒会執行部』と『風紀委員会』と書き、それぞれの下に役職を描いていく。
 会長、副会長、会計×2、書記、庶務。風紀委員長、副委員長。
 そこから一本線を引いて『親衛隊』と続けた。それを赤、もしくは黒で囲う。
「この赤いのはやばい親衛隊だから、注意な。ほかにもやばいのあるけど、まぁ生徒会さえ押さえときゃいいだろ」
「はい」
「まー……この学校ってちょっと普通とは違うと思うんよ。外部から来たってことだと特に、最初は戸惑うと思う。そもそも親衛隊ってなんぞや、だと思うんだけど」
 俺だって最初は戸惑った、と琥太郎は零す。
 人気者ランキング、親衛隊、いじめ、そこから先の度のすぎた強姦まがいのこと。
 風紀に所属してみてきたものは良いものばかりではない。けれど、活動していく中で少しはまともになったのではないかと思うのだ。
 それは隠乃時陽の采配もあったのだろうけれど、その活動の一端を自分が担っていたことは事実。そしてその中で殴り合いもすれば、感謝もあった事はやはり少し、
嬉しかったのだ。
「安城寺君、世の中渡ってくのをそつなくこなせそうなタイプだから変なのに絡まれなきゃ大丈夫そうだな。何か質問とか、聞きたいことあったら言ってな」
「あ……じゃあ……」
「何? 先輩にいってみて?」
「先輩、恋人いるんですか?」
「琥太郎先輩、いるんすかー!」
「捺も乗ってくるな…………イマセン」
 ちっ、と篝は舌打ちした。
 こういう態度は見たことある。よく雅哉がしていると琥太郎は思ったのだ。
 そしてちょっとしょっぱい顔。
「……安城寺君は俺より雅哉が世話したほうがいい気がする……」
 そのうち任せよう。そう琥太郎は思ったのだが、それは同志を与えてしまうだけでより一層自分がおいしいネタにされることだとは気付いていない。
「あと、編入生ってもう一人いるんだけど。そいつはまだここに来てない」
「らしいですね」
「そこでこの捺時君の出番なわけなんだが。おい、捺」
「あー……あー…………あー…………」
 なんだその反応、と琥太郎は思う。言いたくない、というような雰囲気だ。
 けれど聞かなければ何も始まらない。
「捺、どんなやつなんだよ。親戚かなんかだろ。隠乃なんて姓、そうねーだろ」
「まぁ、そうなんだけど。あれ宇宙人だから関わりたくねーしー」
「知らぬ存ぜぬでいけると思うなよ。てか教えてくれないと困る。時陽がだんまりなんだよ」
 そりゃ、だんまりだろうなと捺時は薄く笑った。そうなるに思い当たる節が多々ありすぎると。
 そして唸りながら、もう一人の編入生について話を始めた。
 編入生の名前は隠乃美景(なばりのみかげ)。捺時と時陽にとってはいとこにあたるという。
「きゃんきゃんうるさい。美形イケメンハンター。わがまま、じこちゅー、世界の中心は自分。いうとおりにならなかったら暴れる」
「うわぁ……」
「自分がかわいい顔してんのもわかってるから、またタチ悪い。一番のお気に入りはどんだけ気を引いてもなびかない時陽」
「ああ……」
「それでだんまりだったわけか」
 琥太郎と青風は顔を見合わせた。編入生の事を聞こうとすればいやそうな顔をし、はぐらかしてどこかへ行くのが毎度の事。
 捺時から聞いた話と、あの態度を合わせればなんとなく察しがつく。
「それで、その彼はなんで遅れてくるんですか? 病気とか?」
 そこでさらっと篝が問う。すると捺時はため息をついた。
「……院中」
「へ?」
「入院中。兄貴おっかけてて、車にはねられ……てないけど、こけて、頭打ったんだよ。で、流血。で、なんか俺ははねられた! って言い始めてな。跳ねられてないけど」
 怪我は大した事はないのだが、大事をとってという事らしい。
 その現場に捺時もいたのだがはねられ、頭から血を流しても、それでもなお時陽を追おうとした姿。その執念は恐ろしいものだったと捺時は言う。
「ちなみにはねた事にされた車の運転手は景樹。入院中はおつき状態で心身の疲労は半端ないとみた」
「うわあああああ……景樹さん……」
 隠乃美景は色々と問題のある恐ろしい人物、ということは理解した。それをどう処するのか。課題はそれになりそうだと琥太郎は思う。
「Sに入るって聞いたから俺はZにした。俺にどうにかしろは無しだぜ」
 教室の物理的距離、それをもって捺時は逃げ切るつもりだった。捺時もまた美景とはお近づきにはなりたくないらしい。
「え、捺はZ組?」
「おー」
「じゃあZはお前がまとめとけよ。それとほい」
 ひょいっと投げたのは風紀の腕章。それを受け取って捺時はめんどくさそうな顔をした。
 けれどこれを断れないことはよくわかっている。受け取ってくしゃりとズボンのポケットへと捺時はつっこんでいた。


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