入学式、始業式はつつがなく
 紅蓮サン。
 それは金獅子のチームと対していた一派の頭だ。
 編入する前、というか金獅子のチームが学力向上委員会となる前に会ったことがある程度。
 そのチームの名前を琥太郎は覚えていない。数度殴りあったチームだったなくらいである。殴りあわず、多少話もした記憶がある。
 が、なんだかどんどん、おさわりセクハラと気持ち悪い感じになってきたことの印象が強くて他の事は良く覚えていない。
 紅蓮サンが自分を覚えているかはよくわからないが、忘れていてくれたならラッキー。もし覚えているのならどういう対応をされるかわからない。故に極力関わらないのがベストというのが琥太郎の結論だった。
 ちなみに金獅子のチームは金獅子さんと愉快な仲間達、だったらしい。ふざけているのかと聞いたがそうではなく事実。ただ、チーム名が長いため、夜の界隈では『愉快』と呼ばれていた。
 その紅蓮サンは今、祝辞を読んでいる。登壇のときには悲鳴が上がった。だがそれもさらりと講堂内を視線で撫でただけで収まった。そのあたりはさすがだと思う。
「イケメンなんだけどなー、変態さんだったよなー」
 ほとりと琥太郎は零す。この学園で遠くから視ている限り、彼は有能な生徒だ。
 時陽もそういう意味では有能ではあるが、あれは愉快犯的なところがあるから少し面倒だと琥太郎は思う。
 人を率いる、という点においてはおそらく蓮永久のほうが、隠乃時陽より上だ。
 ただ、対応能力というものにおいては時陽のほうが上だろう。蓮永久が決して低いわけではない。
 むしろ他のものより抜きんでている。だが、その上を時陽がいくのだと琥太郎は知っている。
 そんなことを思っていれば入学式は終わり、始業式となっていた。
 と、ざわりと教職員一同がざわめいた。それは琥太郎達にもわかるほどにだ。ちらりとその方向をみればそこには理事長がいた。先ほどの入学式では到着が間に合わなかったのでと代理の者が祝辞を読んだ。
「あ、入学式には間に合ったのかー」
「急がしそうだもんな」
 まだ年若いこの学園の理事長。数人いる理事の末席に名を連ねる隠乃景樹(なばりのけいじゅ)は時陽と捺時のいとこだと琥太郎達は知っていた。
 それは何度か一緒に遊んだことがあるからだ、夜の街で。
「笑いそう」
「お、俺も」
 ふるりと琥太郎と青風は震える。スーツでびしっとしているがあの人はただのヘタレであると二人は知っている。今も内心、びびってるんだろうなぁと思うととても、楽しかった。
 ふるふるするのを我慢しつつ、理事長の始業式挨拶が突発ではいる。それは入学式で挨拶が出来なかった分も含めて。
 隠乃の者の容色は良い。それもあって講堂はきゃいきゃいとはしゃぐ声が広がる。
 それはやがて収まり、挨拶がそつなく行われた。楽しい三年を送ってくださいと一年に、ニ、三年には変わらず楽しい日々を、と。
 そして降壇すると心底ほっとしたような挙動で彼を知るものは噴出した。
 その後に再び、蓮永久が登壇し始業式の挨拶をし式は無事に終わった。
 だが、琥太郎達の仕事はこれからなのだ。
 高校に上がってきた一年を含め、二年三年への顔見せと、演説とまではいかないが所信表明がある。
「あー、たるい」
「まぁまぁ」
 しばらくの休憩を挟んで始まるその前に琥太郎は伸び一つし、ふーっと長い息を吐いた。
「コッタちゃーん」
「なんすかー……」
 呼ばれて、琥太郎は振り返る。そこにはにやにや、笑顔浮かべた時陽がいた。
 金色に染め上げられた髪。乱雑に後ろへ流した少し長いその髪は見た目よりも痛んではいない。
 半眼で見上げる。この人が自分をおちょくるのは日課なのだともう受け入れた琥太郎は何かあるなら早く言えとばかりだ。
「こけんなよ?」
「うぃーす」
 生返事を返せば始まるので着席をと放送。その声に講堂の中はざわつきながら静かになった。
 これから叫び声がこだますることを誰もが知っていた。つかの間の静寂だ。


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