周防琥太郎の通う隠乃宮学園。そこは幼少期よりやがて各界の要となる者たちが通う学園であった。
そしてその名前の通り、隠乃時陽の親類が経営している学園だ。
幼等部からを擁し、中等部より全寮制となる男子校。
思春期の少年たちがそんな場所に詰め込まれればうっ憤はたまる。そして彼らの恋愛感情は同性へとそのはけ口を探すようになる。
その中では見目の良いもの、家柄の良いものを崇拝するというちょっとどころかとても変わった風習が続いていた。
親衛隊なる組織が存在し、彼らは時に崇拝するものを守り、また傷つけもする。
周防琥太郎もまた見目の良い方であった。それは彼の周囲にいた者たちもまた同じ。だが彼らはうまくその親衛隊なる組織と付き合っていた。
月に何度か話をし、うまく折り合いをつける。統率する者には信頼おけるものを。色恋沙汰の感情を持てば、告白してこい。派手にフってやる、などなど。それぞれに独自のルールのようなものがあった。
周防琥太郎の周囲の者達の親衛隊は物分かりの良い、話の通じる相手――というよりも話のできる相手という立ち位置まで自らが下りて生まれた組織でもあった。
軍隊並みの規律をもって生きる彼らはとにもかくにも覚悟があって格好良いと周防琥太郎は思った。
そして自らの親衛隊ができるのに時間もかからない。
周防琥太郎は彼らと話し合い、良い組織としてあり続けられるよう努めた。それはまた、自身が風紀委員であったからというのもある。
隠乃時陽のそばにいるのであればこれくらいは当然。そう思ったからだ。
だがまとまりのある親衛隊があれば、そうでない親衛隊もある。
そういった親衛隊は問題を起こし、風紀委員はそのたびに駆けずり回った。
時には荒事もあり、時には間一髪だったり。
周防琥太郎にとっては初めて続きの一年であった。けれど、時がたてばこの学園にも慣れてくる。
自分がこの学園にきたのは、ともに遊んでいた彼らに混じりたかったというのもある。
けれど、それと同時に楽しそうに話すな、と思っていたのだ。
学園でのことを。だから興味を持ってここへ来た。
入学し、学生生活を穏やかとは言えないがそこそこにはしゃぎながら楽しく過ごした周防琥太郎。
周防琥太郎は二年に上がる少し前に、風紀委員長の任を前任者から受けた。前任者自身も卒業までは風紀委員に属するがそれは責任重大な事でもあった。
何せ前任者は隠乃時陽なのだ。下手は打てないと周防琥太郎は思う。
ふらついて、どんなにふざけて遊んでいても隠乃時陽という男は失敗しない。苦汁をなめない。
だからこその隠乃時陽という男であったからだ。
そんな彼は周防琥太郎に軽く言う。
「適当に楽しみながらやっちまえよ」
「むちゃぶりー……」
そう答えながらも、周防琥太郎は笑っていた。
何せ、この一年がそうであったからだ。ならば次の一年も、きっと同じくだろう。
「まー、センパイがいる間は平和な学園にしてみますー」
「生意気」
そう笑いながら周防琥太郎の隠乃宮学園二年目が始まった。
身長の1センチはまだ憎いままだった。