周防琥太郎(すおうこたろう)の身長は155センチであった。中学二年の終わりは、であるが。
155センチ。それは彼にとって憎むべき数字であった。
伸びない。とにもかくにも伸びない。毎日牛乳を飲み、小魚を食べ身長を伸ばすべくいろんなことをしても、だ。
そんな身長が伸びないというイライラをぶつける対象を周防琥太郎はみつけた。
夜の街にだ。
今日も気分転換、とばかりに家を抜け出す。時たま、風呂上がりの姉にそれを見つかったが彼女は呆れた顔をするだけだ。
彼女は外に行くことは止めない。親に内緒にしてくれている協力者だ。一応。
「別に行くのはいいけど、ばれたらしめるぞ愚弟がぁ」
「ばれないようにすりゃーいいんだろクソババァ!」
「あ?」
ぎっと眉根を寄せた姉をみて、周防琥太郎は逃げた、とりあえず。
窓枠けって、庭へと飛び出しそのまま塀の外まで駆ける。庭に離された犬たちはそんな彼を見送るようについて走った。
彼の家はそこそこに――そこそこどころじゃない程度に大きな家だった。
それゆえに、身を守れる程度の手段を幼い頃より彼らは身に着けていた。
息抜きに、と飛び出した夜の街。そこで周防琥太郎は他人の喧嘩に乱入したり、明らかにまずいことをしている者を相手に立ち回った。
けれど、上には上がいるもので周防琥太郎はうちのめされた。それも、一撃で。
自分よりもゆうに10センチ以上も身長の高い男に。その男はこの界隈では金獅子と呼ばれていた。とある族を率いる頭としてもまた、有名だったのだ。
本人はその呼び方はどうよと笑っていなしていたが見た目のままの呼び名が定着するほうが早かった。
艶やかともいえる金に染めた髪。そして緑の瞳。整った顔立ちとは裏腹に金獅子――隠乃時陽(なばりのときはる)という人物は、単なる喧嘩好きだった。
最近、このあたりの猛者をつぶしている者がいると聞いて、隠乃時陽はその人物を探していた。そして、出会って打ちのめしたのだった。
打ちのめして、隠乃時陽はこの周防琥太郎に見覚えがあることに気づいた。親の取引先にこんなちっさいのがいたと。
これはちょっとまずいかもしれないと思ったがそれとは別の感情を持って喉の奥で笑った。
新しいおもちゃを見つけたような心持ちで。
この男はやがて、周防琥太郎を隠乃宮学園へと誘う切欠にもなる。
おそらくこの出会いはそのためのもの。