06-4
「あー……あとはお前次第だぞ」
 臣が行ってしばらく。コウが声を発し去っていく。
 そうなるともう、ここにはトーゴと俺しかいない。なんだか気まずいようなよくわからない空気だ。
 俺は一歩、踏み出した。
「トーゴ、俺……」
 何から言うべきなんだろうか。
 俺はトーゴのいうねこだってことは?
 好きってことは言った。
 それよりも、トーゴの気持ちを知りたい。
 色々考えているとトーゴが目の前にきていた。
 そして何かを言うよりも先に、言われるよりも先に俺を抱きしめる。
「……ねこ?」
「!」
 その感覚にやっぱり覚えがあったのだろうか。
 もう一度、どうなのかというように聞いてきた。
 俺は見上げて、こくりとひとつうなずいた。その声に、トーゴは満足したように笑みを向ける。
「ねこ、せっき」
「そう、どっちも俺」
 前髪、結んでくれたというと覚えているというように頷かれた。
「このまえは、猫が俺ってわからなかった。だから違うっていった、ごめん」
 するりと口から流れる。
 俺はこんな風にいつも、しゃべっていただろうか。
 素直だっただろうか。
 多分、トーゴの前だからだ。
「トーゴ。俺は、ちゃんとあんたの世界の中にいる?」
「いる」
 そういって、トーゴは俺の額にキス一つくれた。
 別に俺は壊れものでもなんでもないけど、優しかった。
「せっき、揺るがない」
 揺るがない?
 何がだろう。俺が揺るがない。
 それはトーゴの中でってことだろうか。
「トーゴの中で、俺は揺るがない、ってこと」
 聞けばそう、と頷いた。
 そうか、聞けばトーゴは答えてくれる。だからわかるようになるまで聞けばいいだけだ。
「そっか……そっか……」
 あったかい気持ちが、俺の中にあふれる。
 こんなのは、トーゴに会うまでなかったものだ。
 最初は嫌い、それでもいいと思ってた。けれど思われるなら、想われるなら好きのほうがやっぱりいい。
 そして幸せなことに、トーゴの心はそちら側へ傾いてくれたのだ。
 俺の気持ちの在処は自分にと、トーゴにある。
 とても、幸せ。
「トーゴ、ありがとう」
 俺と出会ってくれて。
 拾ってくれて、気持ちを向けてくれて。
 その想いすべて込めて、微笑んだ。



 俺のわがままだったのだけれども。
 運がよかった、というのかもしれないけれども。
 隣に好きな人がいてくれているのはどんな幸運だろうか。
 今感じている気持ちが、俺のホントだ。
 ウソじゃない。最初はウソでもキライと思おうかと思っていたのだけれども。
 それは到底無理なことだったのだと、気持ちを伝えた今では思う。

 好きしかなかった。




 ―了―


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