「刹生」
「臣、ごめん。ごめんしか言えない。もしかしたらそう言っちゃだめなのかもしれないけど……ごめん」
これは俺のわがまま。臣を傷つけていることはわかってる。
それでも俺はトーゴがいい。
トーゴが俺の事をどう思っていても、もし臣と決着つけた後、俺の事をみなくても。
俺はトーゴがいい。
トーゴが好きだ。
その気持ちを持っていたい、守っていたい。
「臣、俺は」
「もういい」
臣は俺から視線を逸らした。視線を合わせない、そらすということはよくあった。
けれど、これはいつものとは違う。
投げやりに、そらされたような感じだった。
「俺のものになる余地はもうねぇってことだろ」
臣はそういって、トーゴを睨む。
「気がそれた。もうやらねぇ」
それだけ言って俺の方へ来る。
じっと視線は俺のほう。そして目の前で立ち止まった。
「今までとは違うんだな」
逃げて、捕まえてももう戻ってこない。そういう意味なんだと感じて頷いた。
舌打ちひとつと一緒に、そうかと臣は落とす。
「あれのどこが、いいんだ」
「え?」
「あれに、囲われてたんだろ」
「あ……」
もうはぐらかす意味もない。そうだと答えればやっぱりなと臣は言う。
わかっていたのだろう。
それで俺が言わないから、何か思う事がいろいろあったのかもしれない。
けれどそれはもう、聞けないことだ。
「臣、俺はやっぱり……どうあってもお前は幼馴染なんだよ」
「それで?」
「それ以上にも、それ以下にもならない」
だからごめんという。
臣はもう理解しているのだと、思う。俺の気持ちはどうあってもこうあるということを。
「……よく知ってる」
お前がそうなったらテコでも動かないこと。
そういって臣は笑った。
少し悲しげなような、そんな表情。
それだけ俺の元において行ってしまった。