06-2
「起きれるか?」
 ぺちんと頬をたたかれた。
 さっきの物音で目は覚めかけていたけれど、今のが決定打だ。
 起き上がれば、少し切迫したような雰囲気のコウがいる。
「……何?」
「悪いんだけどきれくれるか。あれは俺じゃもう無理だ」
「え?」
 暴れてるんだ、とコウは言う。
 誰が、とは聞かずともわかった。
 トーゴと臣、だろう。
「場所、は?」
「連れて行く」
 コウについていく。あれだけ寝ていたおかげか体は思っている通り動いてくれた。
 気持ちはどうしたらいいのか、というあいまいさだ。
 トーゴと臣。
 俺は間違いなく、そう。選べと言われればトーゴを選ぶ。
 その時、臣がどんな顔をするのか、どうするのか。
 それが予想できなくて怖い。
「お互いボコボコだからな、びびるなよ」
「わかった」
 つまり本気で殴りあっている、ということだ。
 どんな状態だ、それは。
 コウに連れられてきたのは、寮の裏にある林の中。その奥の、奥。
 開けた場所で、二人息をつきながら立っていた。
 どちらも引いてはいない。引かない。
 敵意むき出しでお互いだけを、見ていた。
 先に俺に気づいたのは臣だ。ばつの悪そうな顔で舌打ちを一つ。
 そしてトーゴも気づいた。俺に笑顔向けてせっき、と呼ぶ。
「せっき、待ってろ。こいつぶち殺す」
「はっ、逆だろ」
「シンキは、せっきによくない」
 トーゴはそういって臣を睨んだ。臣は勝手な事をと笑う。
 その言葉に、俺はそう見えているのだと知った。
 でもこれは、トーゴが払う者じゃなくて俺がどうにかしなくてはいけないことなのだと、わかっている。
 今までも嫌だと、言っていたけれど。
 押し流されるようにあいまいになっていた気がするから。
「臣……」
「お前は黙ってそこにいろ」
「違う、臣」
 俺は言ってしまおうと思う。
 それでどうなるかはわからないけれど。
 黙っているよりはいいと、思う。トーゴと出会わなければきっとなぁなぁにして俺は臣の好きにされていただろう。
 けど、出会ってしまったから。
 俺はもうあのままではいられない。
「臣、俺はトーゴといたい。お前のそばにいるのは」
 無理だ。
 そう言い切ると、瞳見開かれた。
 こんな場所で言われるなんて思っていなかった言葉だろう。
「お前はどうあっても幼馴染で、応えられない」
「今、言うのかよ……」
「今だから言うんだよ――トーゴ」
 俺はあんたが好き。傍にいたい。
 今度はそう、彼に向かって告げる。
「俺、あんたのことをこれからもっと知りたいと思うし知ってほしいと思う」
 こんな風に思うのは初めてなんだ。
 それが自分の中でもやもやともしている一因でもあるのかもしれない。
 今まで受け身で、どうでもよくて。
 そうあったのだけれども、もうそういう風にはなれない。
「トーゴと、臣と……選べって言うなら俺は、トーゴを選ぶ」
 トーゴも、臣も見て。
 俺はしっかり言葉にした。


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