・もしも短刀主が顕現した本丸が黒だったら

なまえside



『俺の名前は...、っ.....?』


呼ばれた。感じた瞬間に口から飛び出そうとした言葉は、俺がこの本丸から嫌な雰囲気を感じたことによって引っ込められた。この嫌な感覚が何処から発生しているか突き止めようと、俺がきょろきょろと辺りを見渡せば、この本丸に似合わない程に溌剌な笑みを浮かべる男と目が合った。恐らく審神者だろう。


「あーあ、短刀かよ」
『...えっ、』


笑みを浮かべて言う事では無いその刺々しい言葉に、俺が目を丸くして驚愕すると、審神者はスッと笑を消した。


「えっ、ってなんだよ。ウザ。おれ、短刀嫌いなんだよね。子供だし、弱いし。」
『....、....』
「なんか言えよ」
『...え、ええと。あ、主様。俺はなまえ。...です。よろしく、お願い...します。』
「...聞いたことねえ。...こいつ、刀帳載ってる?」


審神者が眉間にシワを寄せながら、後ろに控えていた青年に問いかければ、彼は静かに首を横に降った。煌びやかな衣装を身にまとった青年は、衣装とは対照的に沢山の傷を負ってボロボロだった。思わず、『え...』と、声を出すと、青年は俺に視線を移した。その瞳には、悲しみ、哀れみなど色んな感情があるのが読み取れた。その視線は、すぐ逸らされてしまったけど。


「刀帳には載ってない.....、か...。ちょっと、政府に報告してくる。 」
「...」
「この本丸のルール、叩き込んでおけ」
「.....、ああ」
「返事はハイ≠セ!!! 俺は審神者だぞ!!口の聞き方に気をつけろ!!」


バシン、と嫌な音が鳴った。審神者が青年を平手打ちした様だ。呆然とその様子を見ていた俺の視界に、地面に倒れ込む青年の姿が移る。なんで刀剣男士のあの青年が審神者といえど人間の攻撃にちにふせるんだ、なんて一瞬疑問が脳裏を掠めたけれど、審神者に平手打ちされる前からボロボロだった事を思い出して慌てて青年に駆け寄った。審神者は既に、その場を去っていた。


『え、あ、あの! だ...大丈夫?』
「...っ、大丈夫だ。」


膝を立てて立ち上がろうとする青年に、慌てて手を貸せば、青年は笑った。「ありがとう」ぎこちないながらも、綺麗な笑みだった。


「なまえ...」
『え』
「なまえ、といったか。」
『は...、はい』
「俺の名は三日月宗近。...、あの男の近侍を務めている。」
『あ、あの。あの男の人って、俺達の主様』
「俺はあの男を主と認めていない!!!」


急に声を荒らげた三日月さんに、俺は思わず驚愕して肩を跳ねさせた。


「主は...!...前の、主は!大切に刀を扱う方だった...。少しでも傷がつけば、慌てて刀の手入れをして...、「よく頑張った」なんて、優しく俺に語りかけてくれる様な...」
『...』
「決して、自分本意な行動を、しない...。刀を大切にする...、そんな方だった。」
『...あ、あの』
「主が死んだのは、何かの間違いだ。」
『!』
「主は本当は生きているんだ。そうだろう。皆してこのじじいを騙しているんだな。」
『えっと...み、三日月さん』
「主が死んだのも...、主の代わり≠ニしてあんな男がこの本丸に来たのも、全て....!!.」
「宗近!」
「!」


三日月さんの暴走にどう対応していいか分からず、俺が慌てていたその時。本丸の中から、真っ白な刀剣男士が駆け寄って来て、三日月さんに呼びかけた。するとみるみる内に三日月は正気に戻ってゆき、その後フッと力が抜けるように意識を失ってしまった。


「全く、驚いたな。随分可愛らしい新人がいきなり三日月に絡まれているとは」
『...え、あの、それより。み、三日月さん、気を失って...』
「いつもの事だから大丈夫だ。 それより、君の名を教えてくれないか」
『あっ、はい、なまえ、です...』
「そうか、なまえ。俺は鶴丸。この本丸に来たことを歓迎してあげたいのは山々だが...、」


真っ白な刀剣男士改めて鶴丸さんはそこで一旦言葉を区切り、苦々しい顔で「この本丸に来ない方が、良かったかもしれないな」と呟いた。
俺が思わず驚きながら聞き返せば、鶴丸さんは重く溜息を吐きながら、眉間に皺を寄せた。


「この本丸は、普通じゃない」
『それは、えっと、審神者が1度変わっているから...?』
「ほう...、驚いた。随分察しがいいな?」
『三日月、さん...が...』


三日月さんが先程俺に言った内容から察するに、元々この本丸はとある心優しい審神者のものだったのだろう。その審神者に顕現された刀剣男士は、勿論その審神者を慕っていた。しかし、審神者は死去。その代わりとして新しい審神者が来たものの、その審神者は自分本意で刀を道具のように扱う前の審神者とは正反対の審神者だった。そんな審神者を、三日月さんは主だと認めていない。
その推測を鶴丸さんに伝えると、鶴丸さんはニヤリとして軽く拍手をした。


「お見事」
『...や、やっぱり』
「だが、三日月だけじゃない。他の皆だって、あの男を主だなんて思ってやいないさ。...この、俺もな」
『...!』


「俺はいつか、あの男を殺す。」


鶴丸さんの瞳がギラリと光を帯びる。それと共に俺を襲ったのはとてつもない威圧感。きっと、今まで積み重ねてきた経験や今の審神者への大きな憎しみがあるからこそ出せるのだろうその威圧感に、俺は思わず息を飲んだ。

ああ、他の刀剣男士達も、こうなのだろうか。
なんだか、とんでもない本丸に顕現されたみたいだ。



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M様、リクエストありがとうございました!
これから短刀ちゃんが色んな人に依存されてバッドエンドになる展開が好ましい...。
普段ブラック本丸はあまり書かないので、新鮮でした!



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