01

彼等の最初のステージは、見るに耐えない物だった。それはそれぞれの技術的な面の話ではなく、彼等のステージを取り巻く環境の話。強豪ユニットである紅月との対決。そりゃあ勝つ可能性は低いと俺も思っていたけど、見ないって選択肢は無かった。紅月のライブが終わったらそそくさと会場を後にした観客達に苛立ちを覚えつつ、あーあ可哀想にと他人事のようにそのユニットのライブを見た瞬間。
グン、と意識が引っ張られたような気がした。

殆ど観客はいないのに。見えない観客に向かって笑顔を振りまく彼等にただただ感動した。はあ、と感嘆のため息を吐くと、思ったより大きいため息で自分で驚いた。歌声も綺麗だった。まるで天使が歌っているように澄んだ声がステージから響き渡る。ダンスは拙いし、やっぱり初心者な感じは拭えなかったけれど、俺は彼等のステージを見た時、確かに勇気とかそういうプラスの感情を貰った。そして思ったのだ。

嗚呼これがアイドルか、と。




* * *



「___ぃ、__おい!」


不意に荒々しい声が耳に入る。顔を上げると、怒った顔の大神の姿が視界に映った。あれ、今俺はドリフェスを...?


「...え、何?」
「何、じゃねーよ。俺様が折角話しかけてやってんのに無視しやがって!」
「...? ごめん...意識飛んでた...」
「はぁ?だ、大丈夫かよ......」


怒った顔から一変して眉を下げた大神に生返事を返す。そして溜め息を一つ。またあのステージの事を思い出している。

彼等のステージを見たのはつい先日の話。拙いながらも良いステージを披露してくれた彼等。四人組の顔や声や歌声はしっかりと脳に焼き付けた。けれど、一番大事なユニット名と彼等の名前を見ていなかった。後悔してもしきれない。取り敢えず探してはいるけど、見つからない。二年生には居ないのだろうか。クラスメイトに聞いてみても「えっ、ごめん紅月しか見てない」と平謝りされるだけだった。何だよお前ら。

ああもうじっとしていられない。ガタリと椅子を鳴らして立ち上がると、教室中の人が目を剥いた。


「苗字が自ら立ち上がった...!?」
「え〜ッ、私今日傘持ってきてないのに!」
「ああ、私もです...坊っちゃまに至急届けなければ...」


失礼すぎる。俺が自力で立ち上がると雨が降るってか。今日の天気予報はバリバリの快晴です。面倒臭いので口には出さずに内心でツッコンで教室を出た。取り敢えず、一年生か三年生。どっちにもユニットの仲間は居るし、先日紅月とドリフェスしたユニットの誰かがどちらかの学年に居るか聞いてみよう。

と、気持ちを奮い立たせて勢いよく踏み出せば、トンと軽い音を立てて人にぶつかった。ごめんと謝ろうとすれば、ぶつかった人が転びそうになっていたのを見て慌てて手を伸ばす。軽くぶつかっただけで転ぶなんてどんだけ体重軽いの。なんて毒を吐きながら伸ばした手で相手を支えれば、ふわりと香った花の匂いに思わず硬直した。


「あ、...ごめんなさい」


女子だ。安直な感想しか抱けない俺を許して。俺の来ている制服をそのままスカートに変えましたみたいな服に身を包んだ女子は、心地よい声を発してぺこりと頭を下げた。そしてスカートを翻して俺が来た方向を目指す彼女。何となく目で追うと、B組の前で困った顔をしているのに気がついた。


「...誰かに用事?」
「! あ、衣更君に...」
「りょーかい」


放っておけなくて思わず声をかけると、ホッとした顔をした女子。あ、可愛いとまるでペットを見ているような感覚に陥りながら衣更を呼ぶと、目を丸くする通り越して顔が青い衣更が駆け寄ってくる。


「苗字、今日はアグレッシブだな...?って、転校生。どうした?」
「ユニットの話で......今、時間大丈夫?」
「おう、昼休みが終わるまでなら平気だけど」
「そんなに時間掛からないから...、今日のレッスン何だけど、いつもの場所じゃなくなった事の連絡に」
「そっか、了解。」


当たり前のように話をした二人に疑問符が浮かぶ。


「そういうの携帯ですればよくない...?」


直接言いに来るの面倒だよね。と付け足せば、二人はその発想はなかったと言わんばかりに目を丸めた。こいつらマジかと半目になりながらスマホをふるふるしている二人を見つめていたら、流れで俺もふるふるする事になった。よろしくと言って俺が転校生ちゃんを見ると彼女は静かに微笑んだ。なんていうか、犬みたい。


「そういえば、苗字は何で廊下に?転校生の為か?」


世間話をしていた流れで衣更の口からぽんと飛び出た言葉に目を開く。完全に忘れてた。


「人探してたんだった...」
「人?」
「誰の事だ?」
「あの、先日のドリフェスで紅月と戦ってた...可愛い感じの...」


俺が無い語彙力を引っ張り出しながら紡いだ言葉に、転校生ちゃんが、「それって」と驚いた様に呟いた。どうやら何か知っている様なので「知ってるの」と言葉を催促すれば、転校生ちゃんは慌てながら。


「Ra*bits...じゃないかな、そのユニット」


Ra*bits。Ra*bits。
心の中で数回復唱する度にシックリときた。確かに、あの可愛らしさ。飛んだり跳ねたりのポップなダンス。うさぎっぽい。可愛い。


「ねえ、転校生ちゃん、Ra*bitsのメンバーの名前とクラス教えてくれない?」


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -