03

「驚いたな、名前は転校生と知り合いだったのか!」


本当に驚いてます、という表情の守沢先輩に、「俺、一応同じ学年です」と言うと、面倒臭がりのお前が自ら関わりに行く筈がないだろみたいな事を言われた。特に言い返す事でも無かったし、守沢先輩と喋るのも面倒くさかったので「なんやかんやで転校生ちゃんは俺の恩人です」とテキトーに説明しておいた。恩人?と俺の言葉に首を傾げる流星隊のメンバーを尻目に、俺は転校生ちゃんに話しかける。


「そういえば、転校生ちゃんの名前って?」
「ごめんなさい、名乗ってなくて。あんずです」
「.....あんずちゃん.....、って、呼んでいいの?」
「うん」
「な、なんか下の名前で呼ぶのって照れ臭い」
「気にしないで軽く呼んでね、名前」
「呼び捨て...、あんずちゃん...男前だね」


意外とサッパリしている転校生ちゃんもといあんずちゃんにビックリする。大人しそうだけど、人って見た目によらないな。...あれ、そういえば、なんであんずちゃんがうちのユニットの練習場所に顔を出したんだろう。ふと気になって、事情を知ってるであろう守沢先輩に視線を移すと、守沢先輩は他のメンバー達と、ピシリと石のように固まっていた。
いや、なんでやねん。
助けを求める様にあんずちゃんを見つめるけど、彼女も「何かあったの...?」と困惑気味だ。


「おーい...、皆...?」


取り敢えず、この状況を打破すべく、皆の目の前でふりふりと手を動かすと、五人は一斉に「はっ」と我を取り戻した。


「名前! 転校生とはどういう関係だ!?」
「すごくいい『ふんいき』ですね〜...?」
「しかも、なんだか珍しくアグレッシブッスよね」
「ああ、そんな、名前先輩が取られた...。」
「詳しい説明が聞きたいでござる!」

「えっ...いや、何でそんなにテンション上がってるの...。さっきも言った通り、あんずちゃんは恩人で...」


我に戻った瞬間怒涛の勢いで質問責めをして来るみんなに俺はタジタジ。えっどうしたんだろ。しかし高峯に至っては俺が取られたってどういうことなの。なんだか勢いに呑まれてしどろもどろな態度で、あんずちゃんとの関係性を再度説明すると、守沢先輩が「それだ!」と、ちょっと怒った様子で口を挟んだ。


「それって...どれですか?」
「その名前呼びが気に食わない! 何故出会ったばかりの転校生が名前呼びで、俺達が苗字なのだ!!?」
「あ、じゃああんずちゃんを苗字で呼びますよ。あんずちゃん、ごめんだけど苗字を...」
「いやいやいやそういうことじゃないでござるから!!」
「なんで分からないンスか!? え、鈍感!? やめて欲しいッス!」
「名前先輩に名前で呼んでほしいだけなんですけど...」


名前呼びに異常に拘る五人。これ以上この押し問答であんずちゃんの時間を奪うのも申し訳ないから、「千秋先輩」「!」「奏汰先輩」「...おお〜」「翠」「あっやばい」「鉄虎」「新鮮ッスね...」「忍」「距離が縮まったような気がするでござるね」と、それぞれ名前呼びをした。三者三葉の反応だったけど喜んでくれてる見たいだからまあいっか。


「えーっと、満足しました? あんずちゃんが流星隊のレッスンに来た理由が知りたいんですけど。」


自分で言うのもなんだが、珍しく積極的に質問しているというのに全く誰も質問に答えてくれないっていうね。


「名前が...俺の名を...」
「じぶんの『なまえ』がとくべつなひびきにかんじましたよ〜」
「...嬉しすぎて死ぬ...」
「俺も苗字先輩の呼び方改めた方がいいかもッス...」
「今なら術がうまく決まる気がするでござる。アドレナリン全開でござる〜!!」
「誰一人聞いてねえ...。もうあんずちゃんに聞いた方が早いかも...」
「名前って魔性の男だね」
「エッどういうことですかあんずちゃん」


あんずちゃんがどこからともなく取り出した『皆の特徴』と表紙に書かれたノートに、俺に名前と『流星隊のマドンナ的存在?』と書き込んだのは見なかった事にした。この短時間であんずちゃんの目に俺はどういう風に写っていたんだろうか...。


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