04

「フェルトくん、自室はもう案内してもらったかな?」
「自室? 誰のだ?」
「フェルトくんの」


手入れ部屋から出て数歩歩いた辺りで当たり前のように言い放った審神者の顔を驚きからマジマジと見つめるフェルト。反射的に奴隷の俺が、と呟こうとした口をキュッと結ぶ。薬研は、奴隷という言葉をフェルトの口から聞くと渋い顔をしていた。審神者だって初対面の際、奴隷という言葉に対して複雑そうな表情でフェルトを見やっていた。
今のフェルトは刀剣男士。奴隷では無い。しかし、今まさに目の前で自室まで案内してくれている審神者は刀剣男士にとっての主。ということは刀剣男士はやっぱり奴隷じゃ無いのか。

頭の中で悶々として渦巻く疑問を審神者にぶつけようとした時だった。審神者の歩が途絶え、後ろに居たフェルトの歩も自然に止まって、「じゃじゃん!」と審神者が効果音を口で言った。


「じゃじゃん?」
「えっそこにくいつかなくても...ほら、この部屋がフェルトくんの部屋。開けてみて。」


少し恥ずかしそうに、しかし部屋を見るフェルトの反応が待ち遠しいといった様子の審神者のキラキラした瞳を見つめながら、無表情でフェルトは頷いた。視線を審神者から襖に移し、襖に体を向かい合わせた。暫くじっっと襖を見つめるフェルトを審神者は“自分の部屋に緊張してるのかな?”と予想を立てて年上目線で見守っていたのだが、次の瞬間予想が大幅に食い違っていることに気がついた。

ドォン!

と、物凄い音を立ててフェルトが襖を吹っ飛ばしたのだ。


「お、おぉ...」
「開けたぞ」
「開けたっていうか...」


ドヤ顔のフェルト。顔が整っているせいでかなり様になっているが、やっている事が不可解なので、審神者は一切のトキメキを覚えなかった。フェルトより、この襖を誰が直せるか考えるのに夢中である。


「す、すまない、何か間違っていたか?」


審神者の冷めた反応に気がついたのか、フェルトが慌てて一言謝罪を入れた。悪い事をしたと悟っているようで、罪悪感からか眉が下がっている。目も伏し目がちになって、長い睫毛が強調されてどこかしおらしい。そんなフェルトに「主...?」と着物の裾を掴まれれば、ノックアウト。顕現したばっかだし奴隷だったらしいし、仕方ない。これから色々教えていこう。とデレデレしながら審神者が心に決めた時だった。


「なんだい? 今の音は」


と、フェルトの部屋の近くの食堂で料理をしていたらしい歌仙が割烹着を着ながら、ヒョイと顔を出した。


「あ、歌仙。料理ありがとうね。 えっと、こちら太刀のフェルトくん。 フェルトくん、打刀の歌仙兼定さん。」
「よろしく頼む」
「太刀の新入りか! これは頼りになりそ...って、あああああ!!!!」
「!」
「歌仙...? ど、どうかした?」
「何故壊れているんだ!!」


物凄く動揺している様子の歌仙がビシィッっと指さした場所には、フェルトが先刻派手にぶっ飛ばした襖の姿。ぶっ飛んだ反動で、ただの木屑の様になっている。その木屑を見つめて、歌仙はホロリと涙を流した。


「僕はこの襖に描かれた桜の花が好きで...!っ、く...雅だったのに...!!」
「そうだったの...」
「す、すまない。俺が力加減を誤り破壊してしまった。」
「ぅぅ...雅じゃない!雅じゃないよフェルト!!」


大粒の涙を流しながら、フェルトをポカポカと殴る歌仙を審神者は呆然と見つめる。彼はこの本丸の古株だけど、こんな一面があっただなんて。審神者はもっと刀剣男士の事を理解しようと心に決めた。
手始めに自己紹介カードでも書いてもらおうかな...と、悩み始めた審神者を放って、ポカポカ殴る歌仙とオロオロするフェルト、二人の話は進む。


「僕が修理をするよ...」
「え、...で、できるのか」
「分からない...、フェルト、一つだけ確認なんだけれど、この襖はキミの部屋の物だよね」
「いまは木屑だが」
「黙ってくれ。もし、この襖を僕が修理できたら、この襖をくれないか?」
「ああ...それは別に」
「ありがとう...、すまないが僕は修理を早速始めるから、料理を君が作ってくれ」


そう言って割烹着をズイっと押し付ける歌仙に、フェルトはまごつきながら受け取った。


「僕は盛り付けは好きだけど調理は好きじゃないんだ...」


そう台詞を吐き捨ててから木屑(襖)をかき集めに向かった歌仙。襖への執着心や調理が嫌いという新事実に唖然としながら、審神者は思った。フェルトくんって料理作れるの? と。



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