09

結局、フェルトが晩御飯を作ったという五虎退と薬研の供述は半数以上の刀剣男士から信用されなかった。それは、フェルトが不器用そうだからだとかそういう事ではなく、ただ単に今日来たばかりの新入りが厨で食事当番をさせられる筈がないだろうということだったのだが、審神者に「いや...事情があって...歌仙...んん〜...」と言われれば信じていなかった刀剣男士も疑う余地も無くなった。

「まさか本当にあなたがこれを作ったとは...」
「おいしかったですよ! ぜひ、またつくってください!」
「初めて食べる味だったよ、意外と癖になりそうだ」

まさか本当に、すこし無愛想に見えた新入りが、今日の美味しいご飯を作った張本人だと知り、「料理面での本丸の発達も見込めそうだ」と刀剣男士たちは盛り上がった。しかも、感謝したり料理の腕を褒めたりすると、フェルトが自身の赤髪にも負けないほどに頬を赤く染めて照れるものだから、なんだか褒めるのも面白く感じた。最終的に褒め言葉が「よっ、この腕神!」とよく分からない感じになってからようやくフェルトは薬研によってこの褒め地獄から解放された。

「おいおい、あんまりフェルトをいじめないでくれよ。貴重な新入りだからな。」
「や、薬研...助かった。俺は、褒められることに慣れていない...」
「見てりゃ分かるぜ。 それより、さっき作ってた菓子は皆に振る舞わなくていいのか?」
「えっ!? お菓子!?」
「え〜〜っ、僕、食べたぁい!」


一気に盛り上がる本丸の食堂。短刀も脇差も打刀も、そして審神者も、お菓子という甘い響きにゴクリと喉を鳴らした。
実は、薬研の言った通り、食事とは別に食後のデザートをフェルトは用意していたのだが、ここまでお菓子という存在に盛り上がり、ハードルがあがってしまった後ではなかなかに出しにくい。フェルトはじとり、と薬研に目線で訴えかけつつも厨に引っ込んだ。そして数分後、美味しそうなアップルパイを持ったフェルトがいい香りと共に食堂へ足を踏み入れた。

「...五虎退達が持ってきた野菜の中に...美味しそうな林檎があったから、作った。その...、良ければどうぞ。」

審神者は思わずガッツポーズが飛び出した。美味しいハンバーグが食べられた上にアップルパイ...ッッ! あかんこれ絶対美味しいやつや。サクサクのパイ生地と甘く煮た林檎が絶妙なハーモニーを生み出すやつやん。と脳内で関西弁になりつつ垂れそうになる涎を必死に止める審神者。
そんな審神者に、フェルトは取り皿をスッと差し出す。

「ありがとう...」
「あ、主に」
「ん?」
「主に、一番に食べてもらいたい...」

フェルトの恐ろしい程に可愛い殺し文句に溢れそうになった涙も「ジーザス...!!!」と口から飛び出そうだった叫びも、大きめに切り分けてくれたフェルトの作ったアップルパイも、全てを飲み込んで審神者は「...美味しい!」と笑顔を咲かせた。そしてもう一口、一口。食べる手が止まらない。美味しすぎる。
そんな審神者の様子をきっかけに俺も俺もと一斉にアップルパイを取り皿に移し始める刀剣男士達。どんどん無くなってゆくアップルパイを見て、多めに作っておいて良かったと安堵するフェルト。そしてそんなフェルトを見て、ニコニコと笑顔を振りまく審神者。

___良かった。思ったよりもはやく、フェルトくん、皆と仲良くなれそう。



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