08

「ごちそうさまでした」


そう言って満足気に箸を置いた宗三に、フェルトは首を傾げる。イタダキマス、という食事を食べ始める時に放った言葉と同様に、フェルトの耳には聞き覚えの無い言葉だったからだ。首を傾げるフェルトを不思議に思った宗三が、フェルトに「どうかしましたか」と、問いかけると、フェルトは真っ直ぐな瞳をしながら口を開いた。


「ゴチソウサマ...、とは、どういう意味だろうか」
「...はい?」
「イタダキマスの意味も教えてくれると...助かる。」


思わぬ答えに、宗三が驚愕で目を丸くする。宗三にとって、いただきます、ごちそうさま、は教わった...と言うより元から存在する文化だった。空や海が青いことを知っている様に、食事の前後にそれらの挨拶をする事を知っていたのだ。
フェルトが冗談を言っているのか、と一瞬だけ宗三の脳裏にそんな考えが浮かんだが、フェルトの真っ直ぐな瞳を見る限りそれは無いだろう。
宗三はそう判断して、戸惑いながらも、頭の中にある知識を絞り出してフェルトに説明することにした。


「そ、...そうですね。食事になった食材や、食事を作った作り手に感謝の意を表す言葉、ですね。」
「作り手に...感謝...」


宗三の言葉を聞いて、ぽぽぽと効果音が付きそうなほど色付いたフェルトの頬を見た宗三は頭に疑問符を浮かべた。何故照れているのか。だが、それ以上に疑問な所があったので宗三は色付いた理由では無く、ほかの事を質問する事にした。


「フェルトは、南蛮の刀なんですか?」
「南蛮...」
「他の国、と言う意味で僕は使っています。」
「.....そうだな。恐らく、南蛮だ。」
「恐らく...とは、どういう意味ですか?」


煮えきらないフェルトの言葉に不信感を募らせた宗三が、フェルトの言葉の意味を追求すると、フェルトはその無表情な顔を僅かに曇らせる。


「よく、分からない...」
「...」
「多分、他の国なのは確かだと、思う。 ...この、ハシ?という...木の棒も、俺は食事に使った事が無い」


それで、あんなに...。と、宗三は苦笑いした。
フェルトの箸の使い方は、お世辞にも上手だと言えないものであった。フェルトは、宗三の箸の使い方をチラリチラリと盗み見て、どうにか使っていたが、そもそも持ち方もおかしく、ハンバーグがフェルトの口に綺麗に運ばれることは無かった。


「いや、...そもそも俺は、刀では無く、奴隷だった筈なんだが______、」
「...奴隷...?」


思わぬ言葉に宗三が息を飲んだその時。「「「え〜〜〜ッ!?」」」短刀達の驚いた様な声が食堂に響いた。宗三やフェルト含め、全員が反射的に短刀達が座っている周辺に視線を移すと、その中心でちょっと悔しそうな五虎退と薬研が見える。


「嘘じゃないですよ! 本当にフェルトさんが、今日の晩御飯を作ったんです!!」
「俺っちも証人だが?」


宗三は今まで話していた事を一瞬本当に忘れて、「えっ、嘘ですよね」と素で失礼な事をフェルトに言ってしまうのであった。



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