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「手を合わせましょ!ぱっちんこ!いただきます!」
「「「いただきます!」」」
『...い、いただきます』
一兄は粟田口派の輪の中に行っちゃったな...と思いながらぼーっとしていると、いただきます、が少し遅れた。そんな俺を見て、清光が微笑ましげに笑った。なんとなく恥ずかしくなって顔を赤くしながら、味噌汁を一口。美味しい。
「うげ、味噌汁にわかめ入ってる。俺わかめ苦手なんだよなあ」
『審』と書かれた布で顔を隠しながら絶妙な角度で味噌汁を啜った主が、不服そうな声を出す。
そしてそーっと、長谷部さんの器にわかめを移し変えようとした(長谷さんはちょっと嬉しそうだった)その時、何処からか「主、わかめ残したら、今日の夕飯わかめスープだけにするからね」と光忠さんの声が聞こえてきた。
「何、光忠は俺の心が読めてるの?」
怖、と身震いする主に、苦笑いしつつ、ご飯を食べ進める。
今日の献立は具沢山の味噌汁に、ご飯1杯、自分たちで育てた(らしい)野菜の炒め物と漬け物、そして川で釣った(らしい)新鮮な魚の塩焼き。朝からこんな豪勢な食事を作った光忠さん凄い。
「無銘刀」
『! あ、な、何...?』
ご飯を口いっぱいに詰め込んている主が、俺の名前を呼ぶ。魚の骨を取ることに勤しんでいた俺が慌てて反応すれば、口いっぱいのご飯をごくんと飲み込んでから。
「この後、初出陣いける?」
と、発言した。
『...! う、うん、行く!』
嬉しくって思わず身を乗り出して返事をする俺に、主が満足気に頷いた。
「無銘刀、初出陣頑張ってね〜」
「怪我をして帰ってきたら許さんぞ」
ニッコリと笑う清光と眉間に皺を寄せて腕を組む長谷部さんが対照的で少し笑う。
「よし、初出陣に向けて頑張れるように、俺のわかめやるよ」
いつの間にか他のお皿にわかめを移していた主が、俺にお皿を差し出しながら「これって、無銘刀に初出陣頑張ってねという意味合いであげるだけだし、残したことになんないよね?」と清光と長谷部さんに必死に聞いている。
「流石に主でも、わかめを残す為に無銘刀を初出陣させる訳じゃないよな...?」
恐る恐ると言った感じで発言した獅子王さんに、俺は苦笑いしかできなかった。
食事を食べ終えて数分後、内番の清光と遠征の長谷部さんと別れ、現在俺は獅子王さんと主と出陣の準備をしている。
「無銘刀は...3つ持てるのか!じゃあ...」
と、3つ持たされた金色の光り輝く刀装を目の前にして、俺は目を丸くした。「相変わらず刀剣に対して過保護だな...」という獅子王さんに凄く同意。今から行く時代は、函館。いくら俺一人で出陣するとしても、こんなに刀装を固めていく程ではないだろう。
困惑気味な俺に気づいて、主が、
「怪我はしないに越したことはないからな?」
と、腰に手を当てて如何にも怒ってますという動作をとった。
「だから、これも持ってて」
手に何かを入れられて、グッと握らされる。「絶対落とさないように」と念を押された。そんな大切な物なのかな、と不思議がりつつ手を開くと。
『こ...、これって、』
「お守りだよ」
『え、こ、これ、高価な物なんだよね...いっ、いいの?』
声が上擦ってしまったことを若干恥ずかしがりつつ、首をかしげると、グリグリと乱暴に頭を撫でられる。
「いいんだよ、無銘刀のために買ってきたんだから」
『...ありがとう』
心が暖かくなるのを自覚すると、スッとお礼の言葉が出る。優しい目で俺を見ている獅子王さんと主に、なんとなく気恥ずかしくなって早口で『じゃ、じゃあ行ってくる』と言うと、「頑張れ」と優しい言葉と笑顔を頂いた。
...初出陣、頑張ろう。
「ごほん...____第一部隊、函館へ出陣。」
主が珍しく真面目な声色で指令を出したかと思えば、俺は不思議な力に包まれた。え、え、何、と慌てる俺に、獅子王さんが苦笑いしているのが分かる。
なんか、不思議な感か、
「いってらっしゃい、無銘刀」