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「無銘刀くん」


優しい声が聴覚を刺激し、ぼんやり意識が覚醒する。んん、あと五分だけ寝かせて、と声に出そうとしたその時、俺に比べて大きな手のひらが優しく肩を揺すったので、完璧に意識が覚醒した。


「おはよう、無銘刀くん」

『おはよう...一兄...』


もう朝か、と思いながら欠伸をしたが、はっとして布団から上半身を勢い良く上げた。


『あ、あれ、あの、歓迎会ってどうなったの...!』


三日月さんと会ってから記憶が飛んでいる。何があったか分からず混乱する俺を見て一兄は目を丸くしてからクスクスと笑った。


「無銘刀くんは三日月殿から酒を勧められ、そして見事に酔っていましたよ」
『え.....っ、本当?』
「本当です。今度から酒を飲む時は、私と一緒の時だけにしましょうね」
『う、うん.....?』


酒は程々にしましょう、と怒られるかと思ったけど、一兄と一緒の時なら飲んでいいみたいだ。


『俺、酔った時...迷惑になるよなことしてなかった?』


布団をたたみながら一兄に問いかけると、「いや、大丈夫でしたよ」と優しい言葉と笑顔を頂いた。
ほっとしながら布団をたたみ終え、押し入れにしまう。そのタイミングで、一兄が「よし、朝ご飯を食べに行きましょう」と、立ち上がった。

一兄に習って俺も立ち上がり、部屋を出て歩き始める。すると一兄、食堂につくまでの歩く時間で、説明をし始める。


「食堂の席ですが、主以外特に決まっていません。しかし時間には制限があり、8:30までには食堂に集合しなければなりません。」


大抵の刀剣男士は8:30ギリギリに来るのですが、主の側の席に座りたい刀剣男士や、好きな席がある者は7:00には食堂に居ることもあります。

という一兄の説明が続く。
頑張って早起きすれば主の近くに座れるのか。


『ぇっと...今日は、もう主の近く空いてないかな...?』
「...んー...今日は難しいかもしれませんね。明日、少し待つと思いますが早起きしてみますか?」
『一兄も一緒に早起きしてくれるの?』
「勿論」


優しい笑顔で快く了承してくれた一兄に御礼を言ってから数秒後、食堂についた。


一兄が開けた食堂の扉から大勢の刀剣男士が見える。歓迎会で沢山の刀剣男士と仲良くなれないかなと思っていたけれど、早々に酔い潰れたのでやはり知っている刀剣男士は少ない。


「無銘刀くん、座りたい席などありますか?」

『エッ...べ、別に...何処でも...』


座る席を決めあぐねていたその時、遠くの方で「おーい、無銘刀、席とっておいたけど座る〜?」と声が聞こえた。声が聞こえた方に視線を向ければ、今日も赤が似合っている清光の姿。

普通に有難かったので、パタパタと足音をたてて清光の方に駆け寄ると、確かに清光の隣に一席空きがある。....一席かあ...。


「無銘刀くん、此処に座りたければ私に遠慮しなくていいのですよ」


苦笑いしながら一兄が俺に気を使うが、いくら清光が居たとしても周りには知らない刀剣男士ばかり。一兄も一緒だったら迷わず座ったんだけれど...。でも、流石主大好き清光。俺のためにとってくれていた席は主の席とも近く、心が揺らぐのも確か。



「お前は母離れが出来ない子どもか」


その時、なかなか座るか決めない俺にイラついたのか、鋭い言葉が飛んできて思わず肩を揺らす。恐る恐る声を発した刀剣男士を見ると、煤色の髪を持つ刀剣男士が、言葉にも負けないくらい鋭い目をして俺を見ていた。


「お、おい。長谷部.....!?」
「何言ってんの...?」
「長谷部殿.....?」


そんな刀剣男士改めて長谷部さんの隣に座っている金髪の刀剣男士が、長谷部さんの様子を見て慌てているし、清光と一兄も目を丸くして驚いている。


『ご、ごめんなさい...』


思わず俯き、謝る。これ以上長谷部さんの鋭い目を見ていると泣いてしまいそうだ。


「え、えっと...!無銘刀、俺、獅子王!コイツは長谷部で...、昨日の歓迎会、最後の方会ったけど眠そうだったし覚えてねえかなってそんな事はどうでも良くて...長谷部!長谷部イイヤツだから!」


獅子王さんの支離滅裂なフォローに戸惑っていると「何言ってんの?ちょっと意味わかんないんだけど」と清光が獅子王さんの言葉を遮った。


「でも1番意味わかんないのは長谷部だよ。お前さっきまでこの席に無銘刀が座るって言ったら嬉しそうだったじゃん」


...え?
思わず顔を上げると、清光の綺麗な赤い目に負けない位顔を赤くした長谷部さんの姿が。

どういう事?



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