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side獅子王



「長谷部テンション可笑しくなかった?」

長谷部が同田貫と部屋を出ていった直後に発せられた主の言葉に、主の周りにいた刀剣男士は俺も含め深く頷いた。


長谷部は忠誠心に溢れた刀剣男士だ。あの様に感情が高ぶる時は決まって主が関係している。


例えば、加州を休ませるという名目で一日長谷部が近侍になったあの日とか、主がご飯を作ったあの日とか、御守りを貰ったあの日とか、長谷部は今日のようにテンションが上がっていた。


だから今回も主が長谷部に何かしたのではないかと問いかけると、主は考え込むような動作をした後、ニッコリ笑った。



「全然覚えがない! というより獅子王も見てただろ、俺と一期一振と長谷部の様子」
「だよなぁ。変なとこといえば、お姫様抱っこ≠チてやつだけど」
「アレは揶揄いのつもりだったんだけどネタばらしする前に長谷部のテンションがハイになっちゃってたしな」
「揶揄ってたのかよ」



お姫様抱っこが何か知らないけど、長谷部が無銘刀にする様なものでも無い事が何となく分かった。半目になって主を見つめると「テヘペロ」と舌を出された。

...何やってんだコイツ。


「私には分かります」
「一期一振」


不意に背後から聞こえてきた声。振り返るとそこには顔を青くした一期一振の姿。粟田口派の弟達を一気に背負って部屋まで運んでいた数分前も涼しい顔をしていた一期一振がこんなに青白い顔をするなんて何がわかったのだろう。


「長谷部殿は、無銘刀くんの可愛らしさに...父性を目覚めさせてしまったのです」


一期一振の言葉に俺は言葉を失う。


「長谷部に限ってそれはないんじゃ...」
「有り得る」
「えっ」
「何故なら無銘刀はな...」


という言葉に続けて主が無銘刀の可愛さについて語る。聞き取れない程速いノンストップの言葉の羅列に時折一期一振が頷いているのが怖い。


その後、長谷部との手合わせを終えた同田貫が「何やってんだ?」と声を掛けてくれるまで主と一期一振の無銘刀の可愛さについて語る時間は続いた。

同田貫に長谷部について聞くと、


「無銘刀に憧れられるような刀剣男士になる、つってたな...無銘刀って誰だ?」


一期一振の考察が見事に当たっていて頭を抱えた。
怖いのは無銘刀の事を好きすぎるこいつらか、こいつらをメロメロ(死語)にする無銘刀なのか。


ただ一番怖いのは「無銘刀って誰だ」と言う割に、無銘刀の歓迎会に出席していた同田貫だと思う。



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