19

side長谷部


「本当にこれであっているのだろうか」


という疑問が頭に浮かぶ。主が自信満々に教えてくださったのは、俺が片腕で無銘刀の脇から背中に手を回し上半身を支え、もう一方の手を両膝の下に差し入れ脚を支え、抱き上げる抱き方。

主が言っていた事が間違っている筈が無いし、実際この抱き方は安定している。疑う方が可笑しい。

...しかし、無銘刀を運搬している最中、次郎太刀が「お姫様抱っこだ!!」と何やら興奮していたのが気になる。更に、その2人だけでなく、他の刀剣男士も「ヒューヒュー」と野次を入れたり、「主、か...」と悟った様に苦笑いするのだ。


「此処か」


...まあ、抱き方については次郎太刀に聞けばいいだろう。と自己完結したところで、一期一振、無銘刀と彫られた木札が掛けられた部屋の前につく。

遠慮なく部屋に入り、舌打ちをひとつ。
布団も俺が敷くのか、と、内心文句を言いつつ、無銘刀を壁にもたれさせて押し入れに向かう。


「.....?」


しかし、右手の裾に違和感を感じて振り返る。すると、うっすらと目を開けた無銘刀が俺の裾を掴んでいた。


「チッ...何だ、布団が敷けない。」


苛々を隠そうともしない俺に、無銘刀は寝ぼけながら。


『父さん』
「!?」


と、衝撃的な発言をして薄く笑った。


父...だと...?
俺達刀剣には父と呼べる存在は居ない。強いていえば鍛刀してくれた刀工や、刀剣男士として顕現してくださった主であろう。

しかし、今、コイツが、無銘刀が、父と呼んだのはこの俺だ。


「っ」


ズキューンと何かを撃ち抜かれる音がして、言いようのない衝動に駆られる。無銘刀に、憧れられたい。

それが、俺に父性が目覚めた瞬間だった。


また眠ってしまった無銘刀の手を裾から離し、布団を敷いてそこに寝かしてやる。
そして無銘刀の頭を一撫でして、部屋から出る。


「...鍛錬をしなくては」


足に力を入れて走る。宴会を開いていた部屋の襖を勢い良く開けると、沢山の刀剣男士の姿。

ここにいる誰よりも、無銘刀に憧れられる、そんな刀剣男士に。


「ねえ〜、長谷部、さっきの抱き方お姫様抱っこって言うんだけ」
「同田貫!」
「あ?」


次郎太刀の言葉を遮り、戦いが好きな同田貫の名を呼び「手合わせだ」と叫ぶと、ニヒルに笑みを浮かべ「珍しいじゃねえか」と部屋の外に出てくる。


「手合わせなら広いとこでな!」


獅子王の言葉を背に俺と同田貫はいつも手合わせに使っている場所に駆けた。



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