08
あの後三日月さんからシャンプーハットを借りて、早々と髪と体を洗い終えた俺。漸くお湯に浸かれると嬉々として立ち上がると、すぐそこに腰にタオルを巻いた三日月さんの姿があった。
『え…な、何してるの、ですか、三日月さん』
「無銘刀を待っていたんだ。折角だから共に湯に浸かろうと思ってな」
『…そ、それは、いいけど、体冷やすから湯船で待ってれば、よ、良かったのに』
その俺の言葉に「心配してくれたのか、ありがとう」と微笑む三日月さん。素直にお礼を述べた三日月さんに対して俺は照れくさくて『べ、別に』なんて素っ気ない返事を返してしまう。ここで素直に『どういたしまして』と言えないから、俺はあまり友達とか親しい関係の人が居ないのだろう。
三日月さん、怒ったかな。と心配しながら三日月さんを目で追うと、気にした様子もなく湯船に浸かって俺に手招きをしている。
「無銘刀や、湯に浸かってじじいと話でもしようではないか」
『あ、う、うん』
三日月さんの言葉通り湯に浸かる。気持ちよくて思わず『あ〜〜』とおっさん臭い声を出すと三日月さんに笑われてしまった。雰囲気的にクスクスと上品そうに笑うかと思ったけど、意外にはっはっはっという豪快な笑い声だった。
「そういえば、無銘刀のぱんつの柄は何なんだ?」
『!?』
笑い声から一拍置いて、三日月さんの口からぽんと飛び出したその疑問文。
俺が驚いて信じられない何そのセクハラ!という表情で三日月さんを凝視しても、当の本人は「どうした?」と美しい顔にはてなマークを浮かべている。三日月さんのあまりの悪気の無さに困惑する俺の脳裏に、少し前に聞いた一兄の言葉がよぎる。
パンツの柄は一種のステータス。
つまり三日月さん的には、俺と会話をしようと一般的な疑問をぶつけた訳で。これは、……答えてあげないと可哀想、だよね。
『は、ハート柄』
「…はぁと柄?…あぁ、鳩柄か。平和の象徴だな、よきかなよきかな!」
『…い、いや、ハート。…え…も、もしかして俺のイントネーションが悪いの?』
「い、いんとね…?」
この後滅茶苦茶説明した。