07

服を脱いで、風呂場に繋がる戸を開けると、風呂場特有の生ぬるい空気が俺を包んだ。辺りを見渡すと銭湯のように洗い場があり、大きな浴槽が奥の方にある。ご飯を食べて暫く経っているこの時間に入浴する人は少なく、人はたくさんは居なかった。


「先に髪や体を洗いますか」
『…、うん』


…シャンプー嫌だな。と眉間にシワを寄せた瞬間、薬研さんの声が風呂場に響いた。


「一兄!」
「薬研、どうかしましたか?」
「五虎退の虎を洗うのを手伝って欲しいんだが…今、大丈夫か?」


薬研さんのその言葉に、一兄は「しまった、忘れていました…!」と顔を引きつらせる。どうやら五虎退さんとやらは五匹の虎を飼っていて、半年に一度風呂で洗っているらしい。そしてその半年に一度というのが丁度、今日で。


「すみませんが無銘刀君、暫く一人で大丈夫ですか? 申し訳ないのですが長期戦になりそうなので…」
『エッ、だ、大丈夫』


覚悟を決めた様な顔で俺にそう言った一兄。長期戦になると言っていたし、大変なんだろう。
一兄と薬研さんが洗い場から少し離れたシャワールームに入っていくのを見て、俺は洗い場の空いている所に座る。


「隣に座らせてもらうぞ」
『…ど、どうぞ』


そんな俺に直ぐ綺麗な声が掛けられる。

たくさん空いている所があるというのにわざわざ俺の隣に座ろうとする人に驚きつつ、断るのも悪いので了承すると、彼は自己紹介を始めた。


「無銘刀といったか、俺は三日月宗近。」
『…三日月さん…えっと、よろしく…?』
「うむ、よろしく頼むぞ」


綺麗な笑みを浮かべる三日月さん。
その微笑みに一瞬見とれるが、三日月さんの頭にシャンプーハットがあるのに気づいて綺麗だなって気持ちが冷めた。なんていうか、その、似合わない…。


「ん? しゃんぷーはっとが似合わないか?」


恐らく頭を凝視しすぎたのだろう。
シャンプーハットがスラスラと言えていない三日月さんに慌てて誤魔化す。


『い、いや。あの、三日月さんの後でいい、んで、シャンプーハット借りたいな…って思って…』
「おお! 今まで俺と主以外しゃんぷーはっとを使う奴は居なかったから嬉しいぞ!」


その半分本音の俺の言葉に目を輝かせて喋る三日月さん。でも、その言葉は俺の心にグサグサくる。

他の短刀達、使ってないんだ…。
そして主、使ってるんだ…。



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