04
『あれ…』
赤く染まっていた自分の顔の色が戻るくらい、顔に集まっていた熱が引いた頃。冷静になった頭で辺りを見渡すと全く見覚えがないことに気がついた。それもその筈。俺は部屋に案内してくれる主が食事し終えるのを待っていなかったのだ。
しまった、これからどうしよう。と頭を抱えたその時。
「やっと見つけた…!」
と声が後ろから聞こえた。
急に声が聞こえた事に驚きつつも振り返ると、そこには一期一振さんの姿。相当探したのだろう。息が切れて額にうっすらと汗がにじんでいる。そんな姿に申し訳ないという気持ちが込み上げるが、正直今は会いたくなかった。
俺の部屋の場所を聞いてすぐ別れよう。
『あ、あの一期一振さん』
「えっ」
『え…』
話題をきりだそうとした俺の言葉に、なにか傷ついた様に声を発した一期一振さん。そんな一期一振さんの行動に首をかしげると、一期一振さんは苦笑いした。
「一兄とは、呼んでくれないのですか」
『……だ、だって兄弟でもない俺が、一兄って呼ぶのおかしいし』
「おかしくありません。私は、無銘刀くんが一兄と呼んでくれて嬉しかったですよ」
『エッ、な、なんで』
「弟がもう一人出来たみたいで…」
『弟…』
弟、という言葉に心がむずむずするのを感じた。え...呼んでいいのかな、いやでも可笑しいよね...と悩む。その際、チラッと盗み見した俺を見つめる一期一振さんの表情は、何かを期待している様で。
『………い、一兄』
「!無銘刀くん!」
『ぅわっ』
口に出すと妙にしっくりときたその呼び名に、一兄は感極まったという感じで俺の事を抱き上げた。
「鍛刀されたばかりで、まだ体に不慣れでしょう。私達は同室ですから、部屋に案内しますね」
『え、あ、う、うん』
俺を抱き上げたまま歩き出した一兄に戸惑いながら、しがみつく。
…抱き上げられたのは、初めてだ。
微妙な高さが少し恐怖感を煽ったけど、一兄の手のぬくもりが安心感を持ち、恐怖感すぐに消え失せた。
『あ、りがとう。一兄…』
この優しい一期一振さんの事を一兄と呼べる俺は幸せ者だと感じた。