深山に咲く 3 


志麻はつぶやく。

「本当はすごく寂しい。寂しくて、一人は怖い。本当はこんな場所じゃなくて、人間と一緒に暮らしたい」

けれど、もしも。

「さっきみたいに、我を忘れてしまったら?あたしは鬼で、人間にとって鬼は強い力を持った恐ろしいもので。人間が怖い。人間は自分たちと違うものを何より怖がるから、鬼と人間は一緒に生きていくことは出来ない……もう、誰かを傷つけるのは嫌。誰かに傷つけられるのも嫌。それならいっそ、山姫って呼ばれても…何と言われたって一人で朽ちていくべきだって……そう思ったの」

そして志麻は自分の血族を弔いながら一人で生きていくことを決めた。

「……志麻、君の生き方は悲しすぎる」

志麻の独白を聞いた山崎の胸を占めるのは、言い表すことの出来ない切なさだった。
自分の暮らしを守るためだけに人間を殺めること、それを正しいとは思わない。
だが、彼女を傷つけてきたのはいつだってその人間だ。
人間に傷つけられたが故に人間を憎み、傷つけようとする鬼がいる。それと同じように人間を憎めたら、どんなに楽だったか。
けれど彼女――志麻は人間を愛するが故に、人間から遠ざかろうとする。
人間との共存に憧れて、それでも傷つけまいと自ら距離を置く。
そんな二律背反を抱えながら彼女は一人、この深い森で生きていこうとしている。

「君は、人間に優しすぎる」

山崎が志麻の手をそっと握る。
埋葬のため泥だらけになったそのぬくもりは、自分と――人間と何も変わらなかった。

その小さな手が、たとえ血に濡れたものであっても。
山崎にはとても愛おしく感じられた。


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