深山に咲く 2 


「…………あたしの家は雪村家と同じように人間たちの争いに加担することを拒み、一族根絶やしにされたわ。存続のため人に歩み寄ることを選んだ西の鬼とは同じ道を選べなかった」

時代の分岐はいつも勝者と敗者を分ける。
たとえ他人から見れば敗者であろうとも、己の信念を曲げず滅ぶことを選んだ自分の家を志麻は敗者だとは思わない。

「まだ小さかったあたしは、人間たちの目を盗んでじい様と……兄様と一緒に村を逃げ出した。そして、この森の奥に隠れ住むようになったの」

「…………」

聞きにくいことを聞いてしまったという気持ちは山崎にもある。
けれど、もっと志麻のことを知りたいと思ったのは本当だ。

「祖父上が君に医術の手ほどきを?」

「じい様を手伝って、この森の奥まで迷い込んで大怪我をした人や行き倒れの旅人を助けるうちに覚えたのよ。薬の効能や処方を一つ一つ教えてくれたのは兄様だった」

「……そうか。では俺は、三人に助けられたわけだな」

志麻がうなずく。

「そうね。あたしも二人には感謝してるの。二人が全部教えてくれたおかげで、こんな森の中でも生活できる」彼女は完全に世俗から離れているわけではなく、たまに近くの村や町に下りては買い物や情報収集をしている。
人々に頼まれて薬を作ったり、薬種問屋に薬草などを売って暮らしているのだと山崎は彼女から聞いていた。

「薬を作って生計を立てているのだったな」

「そうだよ。じい様は近くの村では医者として通ってて、そこの人に頼まれて薬作ってたりしてたの。じい様が死んでからはあたしが薬を作ってる」

「ここではなく、町で暮らす選択肢もあったのでは?」

彼女ほどの腕があれば町で医者としてやっていけるだろう。
娘一人でこんな森の奥で暮らすのは不便が多いだろうに、なぜ彼女は留まることを選んだのか。
山崎の問いに対して志麻は答えを返す。

「……こういう暮らしが寂しくないと言えば、嘘になるけど。それでも、人に混じって生きようとは思わないの」

ぽつり、とつぶやく。

「あたしは、落陽のあとの残照みたいなものだから」

寂しげな表情が彼女の顔に浮かんだために山崎はそれ以上問うことが出来なかった。
しばらくして、急に志麻が手を止めた。

「…………」

「志麻くん?」

「……誰か来た」

手だけで山崎を制し志麻は立ち上がる。

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