たとえば色褪せてしまったお気に入りのジーンズみたいに。





「ね、名前」
「なんですか?」
「今日は何の日か知ってる?」
「……何かありましたっけ」
「ううん、何もないよ」
「ええ?」
「強いて言えば名前とデートの日、かな」
「…意味わかんない、」


あ、拗ねちゃった。
でもね、拗ねた顔も好きだよ。
そんな風に言えばきっと名前は真っ赤になって怒るからこれはボクだけの秘密だけれど。


「ね、名前」
「…今度はなんですか?」
「手を繋ごっか」


差し出された手に一瞬だけ名前はきょとんとしたけれど、すぐにはにかみながら自分の手を重ねてくれた。そのまま弱い力できゅっと握られる。

(うーむ、そうじゃないんだけどなあ…)

嬉しいけど少しだけがっかりしながら、ボクから指を絡めた。
「あ…」
「ラブ繋ぎ、ね」

えへへと笑ってそのまま手を握れば名前は少しびっくりしたみたい。だけどボクたちは恋人同士だもの。これくらいはしてもいい…よね?


「…これ、恋人繋ぎですよ?」
「えー、ラブ繋ぎの方が可愛いよぉ」
「…確かに可愛いです、けど」
「でしょ?だから名前とラブ繋ぎしたかったんだぁ」
「…変な理由」
「あう…そうかい?」
「でも私も好きです」


ラブ繋ぎ。
そう名前は付け足した。

ねえ、名前。
ボクはキミと過ごして初めて知ったんだよ。

好きな子と一緒に好きなことをできるのはすごく楽しいってこと。
好きな子の隣で見る景色はいつもより綺麗だってこと。
好きな子のことを知る度にもっともっと好きになるってこと。

ぜんぶキミが教えてくれた。
ボクたちは出会ったその日までまったく違う人生を歩んできて、違う景色を見てきた。それなのに今はこうして歩幅を合わせて歩いている。
これってきっとすごく素敵なこと。


「ね、名前」
「なんですか?アーティさん」


キミにね、伝えたいことがたくさんあるよ。

ボクと出会ってくれてありがとう。
いろいろ教えてくれてありがとう。
大好きだよ。
これからもよろしくね。


あーでも、
今いちばん伝えたいことは。


「キス、しよっか」


ね、名前。
キミのね、ボクを見上げるときのあどけない顔が、一番好きだよ。



fin






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