「いよいよだね・・・、」



私はチコリータをだっこして、シルバー君へと顔を向けた。

肝心の彼はといえば私と同じくワニノコを抱えながらちょっとむずかしい顔をして空を見上げている。私がどきどきしっぽなしなのは、きっとまんまるお月さまの光が彼をふしぎに照らすせい。そういうことにしておこう。



「ヨルノズク、お願いね。」


名前が声をかけて頭をなでるとヨルノズクは彼女に答えるようにホウ、と一鳴き。それを合図に地面をけった。2人と三匹はあっという間に夜の色に紛れ込んだ。ヨルノズクの翼が風をきる音だけが静かな空を支配する。


二人でこの町を出ていくのは二回目、つまり初めて出会ったとき以来の事だった。名前とシルバー、二人とも今よりずっと子供だったため最初こそ馬が合わなかった。しかし段々と会話をするうちに徐々に打ち解け、今や名前の幼なじみのヒビキでさえも舌を巻くような信頼のおける間柄。
シルバーは元より、名前は喜びは一入だった。最もその感情は、まだ上手く言い表せないようだけれど。


頬を撫でる風を感じながら、名前は隣の彼に想いを馳せる。

きっと、シルバー君と出会わなかったら私はずっとここに居すわってお母さんの小言を聞かされていたに違いない。
とにもかくにも、彼に出会えて救われたわけで。代わりといっちゃなんだけど、今度はシルバー君のお役に立つために旅のお供をすることになった。

まるで、鬼を退治しにいくどこかの誰かさん達みたい。
でもどうせおとぎ話なら、灰かぶりの靴を拾い荊姫の森を抜けてその先の長靴をはいた猫の領地にごやっかいになりたい。きっとすてきな時間を過ごせそう。



ね、シルバー君。とおよそ何のことか分からない彼に同意を求めようと名前は顔をあげる。と、彼の瞳が目の前にあった。なんとなく億劫で声を出すことが出来ない。
そんな様子の彼女に、シルバーは始めこそ見つめるだけに留めていた。が、少し目を細めて名前の頬に手を添えた。



ほんのり赤い名前の頬に、そっと唇を寄せる。
触れるか触れないかの子供騙しなキス。ゆっくり離すと、そこには真っ赤になった彼女がいた。恥ずかしそうに身をよじりつつも、少し不服そうな様子が愛くるしい。なんだ、と問いかけたってどうせいじわる。ときり返されるに決まっている。
それならいっそとびきりに甘やかしてやれ、今日は特別に。
表情を崩さないようにいつものうすら笑いを浮かべて、名前の耳へなるべく優しく囁いた。



「大人になったら、眠ってたってキスで起こしてやるよ。」




Magical 8Bit Tour


ピコピコかがやくお星さま

となりの相棒にご挨拶

かばんにつめた夢と一緒に

ぼくらの国を後にした。






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