馬鹿じゃないの、病院行けば、意味不明。

そういった言葉を浴びせれば、名前はいつも泣きそうな顔をする。
けれど次の日には決まってオレのところへ来てクッキーやらなんやら届けに来るんだ。
いらないと断っていても本当は家に帰ってからちゃんと食べてる、大半がこりゃ砂糖と塩を間違えたなというものばかりで食べれたもんじゃないけど。
それでも完食してあげてるんだ、感謝しろよ。

そんなある日のことだった、昼休みにはいつも屋上でだらだらしているオレのところに毎日欠かさず来ていた名前が、今日は来ない。
なんで。あいつは委員会なんてものには入ってないし、昼休みにはずっとオレのところへ来ていたくらいだから特に用事などない筈。じゃあ何なんだ。
色々と思考を巡らせてみたけど、残念ながら納得できるような結論は出なかった。
こういう時には考えるより行動する派のオレは、重たい腰をなんとか持ち上げて校舎内をぐるりと一周する。ああ面倒臭いけど仕方ない、名前を捜す為だろと自分自身に言い聞かせていると、いつの間にやら中庭に来ていた。
ああ今日は天気がいいな、風が気持ちいい。ふと顔を上げると、そう遠くないところに名前がいた。なんと名前は、ひとりの男子生徒から告白を受けているようだった。
そう認識した瞬間、なんとなく廊下の壁に隠れてしまった。馬鹿だろなんでオレが隠れてんだよ隠れる必要ないだろ。
そんなこと分かってはいたけど、なぜか足が動かなくて。ここまで聞こえてくる声を聞く羽目になった。
「…ずっと、好きだったんだ。良かったらつき合ってください」
そいつのテノールボイスは何故だかオレの心臓に直接低く響くようで、聞いた瞬間胸が苦しくなった。
なんだ、告白現場だと認識した時はあいつ意外にモテてるのかと思ったけど。告白してるのは同じ学年の生徒っぽいけど見たことも聞いたこともない奴だった。つまりはあれだ、有名じゃない。そんな奴ひとりふたりに告白されたところでモテてるとは言わない。は、なんでオレこんなに安心してんの。別にあいつがモテてようがモテてなかろうがオレには関係ないじゃん。
分かってはいるんだけど。なんだか胸がむしゃくしゃして、すごく不快だ。

ああそうか、名前のせいか。

オレのあまりに理不尽な思考はすぐに体を動かし、気がつけば名前の腕を掴み走り出していた。視界の端に名前に告白してた野郎が戸惑ってるのが見えたけど、自業自得だと思った自分が自分でも分からなかった。

「…トウヤくん…?」
いきなり走らされて息の切れている名前といつものように屋上でふたりきり、やっぱりオレにはここが一番落ち着くと思う。
「今日は何持ってきた?」
名前が言いたいであろう質問には答えず、質問で返す。なんてずるい手だろうとは思ったけれど仕方ないだろ、今のオレにはこれぐらいしかこの場をやり過ごす方法がないんだ。
だってオレはまだ、自分の気持ちが分かってない。

ツンデ恋歌

(今日はね、マフィン焼いてきたの!)
(…焦げてる)




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