今、私はタケシと二人っきりで買い出しにきている。

まるでデートみたい!と浮かれていたのも最初だけ。

タケシが手に持つダイコンやらネギやらのおかげで雰囲気は台無しだ。

それはもう、見事に。

「そろそろ帰るか」

「うん……」

「元気ないけど、どうかしたか?」

「……どうもしない」

不思議そうに首を傾げるタケシには、私に対する恋心なんて微塵もないのだろう。

タケシは綺麗でグラマラスなお姉さんが好きなのだ。

残念ながら、私はそれに当てはまらない。

分かってはいたが悲しい。

すぐに着いてしまった本日泊まる予定のポケモンセンター。

予想通り、タケシはジョーイさんに向かってハートを飛ばしまくっていた。

「……はぁ」

仕方ないのは分かっているし、仲間として大切にして貰っているのも分かってる。

理解はできる。

だけど納得できない。

買ってきた荷物と食材を片付けて、私は深く深くため息を吐いた。

タケシはグレッグルに攻撃されて痺れて動けないみたいだ。

なんだかムカムカする。

あのジョーイさんよりもグレッグルよりも私の方がタケシとの付き合いは長い。

それなのにあんなに仲が良さそうで、ズルい。

他の人と仲良くしてるタケシが見たくなかった。

だから私は、こっそりと外に出た。

なるべく人のいないところを探して歩く。

途中、雨が降り出したけれど、私は傘も差さずに歩き続けた。

子供じみた嫉妬であることも、それがただの八つ当たりだと言うことも分かっていた。

私は何もかもを理解してる。

理解出来てる。

ただ、納得できないだけなんだ。

公園にたどり着いたけれど、雨が降ってるからか誰もいなかった。

誰もいないブランコに座ると、キィという音がした。

「寒い……」

小さく呟きながら、びしょ濡れになった自分の体を抱き締める。

目から涙がボロボロとこぼれたけれど、雨に紛れてすぐに分からなくなった。

灰色の空をぼんやりと眺める。

何人かの人が公園を通り過ぎていったけれど、訝しげな目で私を見るだけで誰も何もいわなかった。

ここは寒い。泣きつかれたし目も痛い。

だけどあの場所には帰りたくない。

そう思っていた。

「名前、こんなところにいたのか」

タケシが迎えに着てくれるまでは。

「名前、こんなとこにいたのか」

びしょ濡れじゃないか。と言いながらタケシは私を傘に入れる。

「な、なんで……ここに?」

すっかり戸惑った私にタケシは、名前が出ていくのが見えたがら。と言って笑った。

「帰ったらすぐお風呂に入らないとな」

そう言って私の手をひくタケシに、コクリと頷いて立ち上がる。

さっきまであんなに嫌な気持ちだったのに、今は微塵も残っていない。

「タケシって凄い……」

「どうしたんだよ急に?」

「どうもしない」

そうか?と言ってタケシは私の頭を撫でた。

私は彼のこういう面倒見が良いところが好きなんだと思う。




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