いきなりだが私は在宅勤務の形を取って社会人としての仕事をしている。
もともと事務職であったこともあり、パソコンと睨めっこが出来れば仕事は出来るために在宅勤務を希望したらあっさりと受け入れられた。
けれど、電話やパソコンのメールだけでは意思疎通か出来にくいし、仕事もまとめて貰ったり渡したりをするので週一日だけ会社へ出勤することが義務付けられている。
その際はミナト君を託児所へ数時間だけ預けていた。
『今日もお仕事頑張って来ますよ。なのでミナト君はここで待っててね』
こんな風に悠々自適に生活出来ているのが有り難いと思う。融通の利く会社であるし、託児所も駅から近いので迎えに行きやすい。
ミナト君を預けるために腕から腕へ保育士の方にパスをする。
『あたたたたたた』
抱き抱えたのを確認して離れようとした瞬間、髪の毛を思い切り掴まれた。
『ちょっ、ええ』
素知らぬふりという顔をして、小さな手が思い切り髪の毛を一束掴んでいた。離れようとするも離れない。赤ん坊の小さな体にこんな力があるのかと感心。でもピンチだ。
『すいません。あの、その可愛らしい手を離していただけませんでしょうか』
無理。手の力がそう告げている。
『ああ、本当にどうしたら』
自分の髪の毛が抜けるのは構わないが、痛いのだけは嫌だ。いっそのこと切るのも手段として考えよう。
そんな思考を巡らせていると保育士さんが息を吸った。
―わっ
ただ一言だけ小さく言葉を発した。瞬間、ミナト君は目を真ん丸にして驚いたようだった。小さな手は簡単に離れた。
『ありがとうございました。いや、凄いですね』
頭を下げると保育士さんは微笑むだけで、いってらっしゃいと言って名残惜しさを感じさせぬように部屋の中へ消えて行った。
子供と接するプロフェッショナルは凄い。
そう思いながら会社へと向かった。
ミナト:0歳