どうやら友人は男に捨てられたらしかった。大学を出て数年、社会人として慣れてきたところに出会った男。順調に付き合っていたのだという。けれど、男は結婚をしていた。その真実を知ったのは妊娠した後のことだ。妊娠をしたことを告げると男は逃げた。友人はどうしようもなくなった。

自分、子供、金、将来、全てが頭の中に流れ込んだ。考えても考えても駄目。子供はどうにもならない状況で、育てる決心をした直後、男の妻から慰謝料の請求をされていた。男は友人と付き合っていた際、稼いだ金を家庭ではなく友人へ注ぎ込んでいた。男の家庭は言うまでもなく破綻。金のなくなった男に用はないと、妻の怒りの矛先は自然と友人に向かった。

子供は産んだ。その後、休んでいた仕事に復帰をし、慰謝料の支払いを始めようとした。

けれど友人は気づいた。こんなにも苦労をして、自らが招いた不幸は全てあの男のせいじゃないか。忌ま忌ましい。あの男の血が入った子供を何故自分が産んだのか。友人の思考は子供を嫌悪する方向へと向かったのだ。

虐待はなかった。母親という自覚はあった。でも、育てていく自信は減少する一方であることに焦りを感じる毎日。

それが子供を産んでから一ヶ月のことだった。

友人は子供から離れる決心をした。真っ当な人間に戻りたいと強く望んだ。慰謝料を払い終え、自立をしたい。子供は信頼している人間に預け、いつかまた一緒に暮らすのだ。そう言った。

私は目の前で土下座する友人から子供を預かることにした。連絡先を変えることは許さない。月、一定の金額を振り込む。子供の苗字は友人の苗字のままにしておく。あくまでも私は保護者、養育者という立場でいる。一部の代理権を与える有無を公的な書類に書き、養育期間中は近づかないことを誓った。

充分だ。ありがとうと友人は言った。何度も何度も頭を床に擦りつけて感謝の言葉を吐いた。

私はただ一言、大丈夫とだけ言った。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -