長かった数ヶ月、ミナト君の誕生日が数日後に迫っている。
久々の夜泣きに睡眠不足気味な頭を叩きながらパソコンと向き合う自分は、彼の面倒をきちんと見れていたのだろうか。誰も教えてくれない答えをぼうっと待っていた。
疲れているせいか、頭が回らなかった。
そうだ、ミナト君の誕生日ケーキはモンブランにしよう。
それだけ思い付いた。
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誕生日当日、ベビーカーに彼を乗せケーキ屋へ目的のモンブランを買いに来た。
『モンブランのホールで、あ、一番小さいやつを、ひとつ…あと蝋燭を一本お願いします』
数多く並んだケーキの中からモンブランを選んだ。揺らぐことのなかった選択、誕生日の可愛らしい男の子や女の子のマジパンの飾り付けに心は一切惹かれなかった。
茶に近いモンブランではなく、彼の明るい色をした黄色みの強いモンブランのケーキが涎が出そうなほど美味しそうに見える。
『誕生日プレート…すみません、あのっ、誕生日プレートも』
店員のお姉さんが包み終わろうとしていた直前、慌ててプレートを頼む。
危ない危ない、誕生日のプレートを忘れそうになるとは失態だ。
お姉さんは先程まで包んでいた箱を開き、何事もなかったかのように「お名前はどうしますか?」と親切に聞いてくれたので、私ははっきりと『ひらがなで、みなと、で、お願いします』と言った。
少し待った後、出てきた誕生日プレートを確認すると丁寧な字で「みなとくん、お誕生おめでとう」と書いてあった。
頷いて笑顔になる。
なんだか、ミナト君以上に、そのプレートを自分が喜んでいるようで恥ずかしい。
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家に着いた頃には、もう夕飯の時間となっていた。
もう少し早く帰って来るはずだったのに、時間配分を間違えてしまったことを後悔しつつ、夕飯を作りはじめた。
自分の夕飯は質素にうどん。
彼の夕飯は豪華に仕上げた離乳食。
そろそろ離乳も終了の時期が近づいているので、出来るだけ固形のものを用意したが、彼は食べてくれるだろうか。不安だが、普段よりも彩りを考えたそれは、今日という特別な日に相応しいものであると胸を張って宣言しよう。
『あ、食べて眠くなっちゃう前にケーキと写真撮っとかないと』
ケーキ屋へ行ったことへの疲れを考慮して、あぶあぶと言うミナト君を赤ん坊用の椅子へ座らせる。
『誕生日、たんじょーびっ』
箱から出したケーキに蝋燭を刺し、火を灯す。
淡く揺れるオレンジ色の炎がミナト君のご機嫌を誘う。
『いい笑顔だね』
きゃっきゃ、と楽しそうにそれを見ている彼の隙を狙って、用意したデジタルカメラのシャッターを連打した。
『ハッピーバースデー、ミナトくーん』
決して自分は、その写真に入らない、写らないようにしながら、シャッターを押していた。
喜ぶミナト君、いい笑顔が撮れて大変満足である。
それからは、お決まりでご飯を食べさせた後、小さく小さく切り分けたケーキを彼に食べさせ、その後、また写真ばかり撮っていた自分はなんとなく親バカなのだなと理解した。
ミナト:1歳