騒ぎ
「二回戦まで俺もお前もだいぶ時間があるな」
シェイアードが言い、
「しばらくは他の参加者の試合を見るだけかぁ」
リオは憂鬱な気分になり、ため息を吐く。
なぜなら、他の参加者の試合ーーそれはただの無意味な殺し合いを見るだけなのだから。
ーーそれから、二人はしばらくの間、試合を見ていた。
(えげつない戦いばかりだ。命乞いすら許されない‥‥何を思って殺し、殺されるんだろう)
やはり、何度見ても見慣れなくて、気分が悪くなってリオは目を細める。
それから隣に座るシェイアードをチラリと見て、
「シェイアードさんはルイナ女王のことどう思ってるの?」
単刀直入にそう聞いた。
「いきなりなんだ」
「だって、彼女はあなたのこと好きーーむぐっ‥‥」
「だからどうだと言うんだ」
シェイアードはそう言って、右手でリオの口を塞ぐ。
「相手が俺をどう思おうが、俺にはそのような感情はないんだ。無理にそんな感情を作るわけにもいかないだろう」
塞がれた口から手を放され、
「‥‥まあ、そうですけど」
と、リオは俯いた。
安心したような、複雑な気分のような‥‥そんな気持ちになる。
(‥‥ルイナ女王の気持ちを放ってはおけない。今度こそ‥‥)
リオはルイナにレイラを見ていた。
(カシルを好きになったレイラに‥‥私は何もしてやれなかった‥‥だから‥‥でも‥‥)
リオがそう考えていると、
「それに、女王のことを好きだったのは、俺の弟だ」
ぼそりとシェイアードが言う。リオが顔を上げると、
「キャァアァァアア!!?」
「うわぁあぁぁああ!!!」
いきなり、遠くの観客席から悲鳴が聞こえた。
「何!?」
リオとシェイアードは慌てて席から立ち上がる。
「キャアァアーー!!」
次に聞こえたその悲鳴は、聞き覚えのある声だった。
「女王の声だ!」
リオが悲鳴の聞こえる方向に走り出したので、
「おいっ‥‥」
シェイアードは呆れるようにため息を吐く。
「たっ、助けてくれぇ!」
人々は、何かから逃げるように叫んでいた。
「何があったの!?」
リオが逃げようとする一人の男を捕まえて聞くと、
「まっ‥‥まもっ‥‥魔物が来たぁぁぁああ!」
「魔物!?」
リオは慌てて剣を抜き、ルイナを捜して走る。
「ーーグガァアアア!!」
獣のような声が聞こえ、声の方にリオは振り返った。
「誤算だったな、ファインライズとフライシル家の者達は殺しきったと思ったが‥‥まさか一人ずつ生きていたとは」
頭の左右から角を生やし、赤い目と鋭い牙、獣のような茶色い皮膚。
人間よりも遥かに大きな生き物ーー魔物が片手にルイナを抱えながら言った。
気絶したルイナを見たリオは剣を構え、
「女王様を離せ!」
と、叫ぶ。魔物の鋭い目がリオを捉えた。
「リオ、何をしている!」
駆け付けたシェイアードが言ったが、リオには聞こえていないようで、
「早く離せと言っている!」
怒るように言ったリオの体から、不死鳥の炎が溢れ出す。
「なっ、なんだこの人間は!?」
魔物は思わずルイナを地面に落としてしまった。
すると、シェイアードは魔物を見て目を見開かせ、
「あれ、は‥‥」
と、明らかに何か、彼は動揺している。魔物は次にシェイアードに視線を移し、
「貴様ーーシェイアード・フライシルか!あの時、確かに殺したと思ったが‥‥右目を失っただけか」
そう、魔物は笑った。
「えっ!?まさか、シェイアードさんの言っていた魔物‥‥?」
リオが気づくように言えば、
「見間違えるわけがない‥‥あれは、俺の家族を殺した魔物だーー!」
まるで、怒り任せにシェイアードは剣を引き抜く。
叫び回る人々の声を聞きながら、変わり果ててしまった状況を整理する暇もなかった。