回想と後悔


初めて出会った時、カシルは悪い人には思えなかった。

『おい、聞いてるか?』

それが彼の第一声で‥‥

『‥‥あ。に、人間だ‥‥』


(私は魔物と勘違いしたんだっけ。それから、どこかシュイアさんに似ていると感じたっけ)

それから食べ物のことを教えてくれて、ぶっきらぼうだが、優しい感じがした。


ーー道を開く者、サジャエル。

『ええ‥‥とても懐かしい‥‥遥か遠い昔のことを思い出します‥‥リオ。私は【道を開く者】です。そしてあなたは【見届ける者】‥‥見届け人となるのです』

サジャエルは謎めいた事ばかり言う女性だ。

『ただ‥‥ただ、あなたはカシルに会ってはいけません』


(そうだ‥‥サジャエルさんは、カシルさんを知っていた)


『リオ、私はあなたを信じています。あなたなら、きっと‥‥』


(私の、何を信じていると言うのだろう?)


ーー魔術。

『魔術には属性がある。火・風・水・雷・土・光・闇‥‥だな。そして、言い伝えなのだが、生まれるはずのない属性の魔術がこの世界にはあるらしい。どの属性にも属さない。そんな魔術があるらしい。ただの言い伝えだがな』

魔術を見たのも、魔術の事を聞いたのも、あの日が初めてだった。

『シュイアさん!わっ‥‥私にも魔術は使えますか?使い方って、どうすれば?』


(思えば‥‥私はあの時からーーううん、もっと前から力を求めていたのかもしれない)


『魔術は誰でもかれでも使えるわけではないんだ。普通、人は魔術など使えるはずがない』


(結局、魔術はどうやったら使えるんだろう?でも、魔術を使える人は不老になる‥‥?)


ーーハトネさん。

『ええ!ずっと捜してたの‥‥捜してたわ!あなたは十二年程前に、私を助けてくれたじゃない‥‥』


(そうだ。ハトネさんは勘違いしてたんだっけ‥‥そういえば、私はその話を真剣に聞いてあげたことなかったな‥‥)


ーーフォード国。

『城への道を教えてもらえるか?』

フォード国で再会したカシルは、またも道を聞いてきた。

(本当に方向音痴だったら面白いな‥‥実は本当だったり?そんなわけないか)


『やっと会えた‥‥もう、何十年も前だな‥‥すごく、昔だ‥‥』

カシルはあの日、リオを抱き締めながら言った。

(待って‥‥今思えば、あの言葉は本当にシュイアさんに向けられたもの?何か変な気が‥‥)

それからシュイアとカシルが会ってーー‥‥

『はっ‥‥!懐かしい顔だな。だが‥‥見届ける者だと?貴様‥‥その小僧をどうする気だ』


(カシルさんはやっぱり、サジャエルさんと知り合い‥‥)


『やはり‥‥リオは‥‥』


(そういえば、シュイアさん、何か知って?)


『リオ‥‥小僧、名をリオと言うのか‥‥?』


(カシルさんも、私のことを、何か?)


『すでにこの国の時間は止められている。恐らく‥‥奴だな』


(そういえば、シュイアさんもサジャエルさんを知ってるような感じだった‥‥)


『私はいつでもリオの傍に居ます。リオに道を示すために』


(私に?私はいったい?)


『道を示す?はっ‥‥道を狂わすの間違いだろ』


(確かに‥‥今、私の道は‥‥狂ってきた)


『こんな世界から出ていけ。この女に道を狂わされる前に‥‥この俺に、殺される前に‥‥全てに‥‥狂わされる前に‥‥お前は‥‥』


(一体、どういうことなの‥‥?)


ーー王女様。

『あなた、この国の者じゃないって言ったわよね。どこから来たの?』

『ねぇ、リオ。あなた、私の友達にならない?』

『リオーーあなたはこの私、レイラ・フォードの友達になりなさい!』

強引な彼女の言葉の数々が蘇る。
そして、同時に彼女の眩しい笑顔がーー‥‥

『これ!ほらっ‥‥このストーン!とっても綺麗!』

『本当、綺麗な石だね。でも、レイラちゃんはもっと高価な宝石いっぱい持ってるんじゃないの?』

たった50ゴールドの青いストーン。

『宝石なんて、高いだけのただの飾り物よ。ねっ、知ってる?このストーン、この国の人々に評判らしいの。見る人見る人、ネックレスにしたり、お守りにしたりで身に付けているのよ』


(約束の‥‥石)


『私も、皆と一緒がいいの。王女なんて立場よりも‥‥』


(ごめんなさい、レイラちゃん‥‥あなたの気持ちに気づいてあげられなくて‥‥)


ーーフィレアさん。

『私はシュイア様の旅に同行させてもらえなかった。一度も‥‥何度も頼んだのに‥‥あなたは六年間も‥‥あなたはシュイア様にとって、特別なのかしらね』


(シュイアさんは、せっかく助けたフィレアさんを危険な目に合わせたくなかったんじゃないかな?でも、じゃあ、私は‥‥?どうしてずっと一緒に?)


『シュイアに着いて行くのはやめて、俺に着いて来い。それだけだ。シュイアの行く道を辿るか、俺の道を辿るかだ。時間はまだある。よく考えておけ』


(なぜ、私を誘ったんだろう?でも、私がカシルさんと行けば‥‥レイラちゃんは無事だったかもしれない)


『その護衛の‥‥カシルさんにはあまり、近付かない方がいいと思う。あの人は、なんとなくだけど‥‥危ない気がする。レイラちゃんに危険が及ぶかもしれない‥‥』

あの時そう言ったリオに、

『カシルさんは優しい方よ、なんでそんなこと言うの?』


(あの時からレイラちゃんは‥‥とっくにカシルさんを選んでいたんだ‥‥)


『魔術はね、人に‥‥本来ならありえない大きな力を与えてくれるわ。その代わり、代償があるらしいの。信じられないかもしれないけど、不老になるのよ。魔術が安定する体‥‥人それぞれだと思うけど、その歳になったらその時点で成長が止まるらしいの』


(シュイアさんも、カシルさんも、ハトネさんも、サジャエルさんも‥‥不老?)


『私は、レイラちゃんと友達になりたいな』


(‥‥もっと早くに言ってあげれば良かった)


『言うなれば、お前の大好きなシュイア‘さん’は世界を護る側にあって、『世界を生かす者』ーーそう言ったらどうする?』


(殺す者と、生かす者)


『全てが憎いからだ。理不尽な、全てが。わからないだろう、小僧‥‥お前には』


(全然‥‥わからない。全てが憎いなんて、ありえるの?)


『カシルさんはレイラちゃんのことが好きなんですか?』


(だって、キスしてたから。好きな人にするって、ハトネさんは言ってたから。でも、カシルさんは違うと言った)


『あーゆーことをしたからと言って、必ずしもそいつのことを好きだと言うわけでもない。分かったか?』

『じゃあ‥‥レイラちゃんのこと嫌いなんですか?』

『俺は人を好きにはならない。何があっても、絶対に。誰かを好きになっても、最後には裏切られる』


(カシルさんは、なんだか人を拒絶してるように見えた。カシルさんが本当にレイラちゃんを好きだったら、私は安心できたのに‥‥)


『裏切られるだなんて‥‥そんな。ほっ、本当に好きなら、裏切られることなんかないと思います』

『お前がそれを言うのか?とんだ正論だな、反吐が出る』


(どうして私が言うと変なの?私、誰かを裏切ったの?)


『じゃあ、私がレイラちゃんのことも、世界も守ります』


(どうしてあんなこと言っちゃったんだろ。守れもしないのに)


『なぁ小僧。お前は、約束を守る奴か?』
『私はたぶん‥‥約束は‥‥きっと、守るような奴です』


(たぶん、私は約束は守る。だから‥‥レイラちゃんも世界も、守らなきゃ)


『リオ、戻りなさい。その扉を開けば、あなたのこれからの人生は大きく‥‥不幸へと導かれるでしょう。だから、そうなる前に』


(ーーううん。とっくに不幸の道だった。サジャエルさん、あなたに出会った時から‥‥カシルさんに出会った時から‥‥レイラちゃんに‥‥出会った時から。シュイアさんと二人のまま、平凡に旅をしていれば、こんなことには‥‥ならなかったのかな)



『リオ‥‥と言ったかしら?レイラを、あの‥‥娘を‥‥お願い。あの娘は‥‥私の大切な、娘なのです。あの娘を‥‥守って‥‥助けてあげて。あの娘はもう‥‥一人なのです。私は‥‥もう、大丈夫‥‥あなたを、あなたなら‥‥信じ、られ‥‥』


(女王様ーーあなたはどうして庶民や貧乏人を嫌っていたのですか?やはりあなたの愛した国王が庶民で貧乏人だったせいで殺されたから?もう、その真実を知ることはできないんだ‥‥)


『これからあなたはきっと、数々の者達の死を見ることになるでしょう。あなたは【見届ける者】なのですから。それでもあなたは、生きて行けますか?』


(人が死ぬところを初めて見た。なんと言うか‥‥頭が真っ白になった。これからまた、誰かの死を見ることになるの?)


『私は女王様と約束しました‥‥レイラちゃんを守ると。カシルさんにも、そう伝えました。レイラちゃんが何をしようとしているのかはわからないけど‥‥だから、私は生きます。友達だから。レイラちゃんを守り抜くことが出来るまで、私は、死ねません』


(あぁ‥‥本当に、綺麗事だったな)


『約束してやったのさ。外の世界に連れて行ってやると。その代わり、俺達に協力しろとな』

『レイラちゃん‥‥国の外へなら、私が連れていってあげるよ?私は‥‥地名とか、そんなのよく分からないし、地図だってうまく読めないけど、それでも、連れていってあげることぐらい‥‥私にだって、できる。だから‥‥』

『ちっ‥‥違う。違うわ、リオ‥‥そうじゃない。それだけじゃ‥‥ないの。あなたは私の大切な友達。初めてできた、大切な‥‥だけど、けど‥‥』


(私は‥‥選んでもらえなかったんだ)


『そっか‥‥そう、だよね。友達よりも、やっぱり、好きになった人の方が‥‥大事だよね‥‥やっぱり、おかしかったんだ。出会ったばかりで‥‥それで友達なわけ、ないよね』


(友達でいたかった。偽りでも)


『世界を壊す為の鍵だ』


(たとえ、私がシュイアさんでなく、カシルさんの道を選んでいたとしても‥‥あのレイラちゃんの体から現れた透明に輝く結晶をカシルさんが狙っていたんだから‥‥結局レイラちゃんは危険な目に合っていたのか‥‥)


『だが、俺は約束は守る。お前に世界を見せてやる』

『カシル様‥‥信じて‥‥信じても?』

『ああ。信じていい』


(女王様や城を燃やし、レイラちゃんの周りのものを奪っていったカシルさんを‥‥レイラちゃん、君は、信じるんだね)

静かに、頬に涙が伝う。


◆◆◆◆◆

「うぁっ‥‥!?」

リオは目を見開かせた。景色は、不死鳥の山で‥‥

「いっ‥‥今までの事が、頭に流れて‥‥」

そしてリオは思い知った。
自分の無知と、無力さと、後悔を。

「‥‥ああ、よくわかったよ。私は、無知で、無力だ」


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