「やあ、久し振りですね。シュイアにリオラ」

クナイーークレスルドは戻って来るなり二人にそう言った。

「しかし、どういう風の吹き回しです?リオラがクリュミケールに懐いているなんて」
「なんだその言い方は」

そんな皮肉にシュイアが低い声をして言うが、

「いやー‥‥だって、ねえ。リオラ、貴女はクリュミケールのせいで不幸になり、今でも不幸じゃありませんか」
「!?」

言われてリオラは目を大きくし、

「私はもう不幸なんかじゃないわ。今、私は幸せだもの!」

強い目をしてそう言う。

「あはは。あれだけシュイア以外を憎んでいた人の言葉とは思えませんねえ?」

続く皮肉に、リオラはぎゅっと唇を噛み締めた。

「クナイ。なんでそんなにリオラに突っ掛かる。そんな嫌味を言っている場合じゃ‥‥」

諌めるような口調でクリュミケールが言い、ロファースが目覚めたことを伝えようとしたが、

「リオラに用があるわけじゃないんです、君ですよ、クリュミケール。僕の目の前に残る過去の残骸である君を‥‥消し去りたい」

そんなことを言ったクレスルドに、一同は驚きの視線を向ける。

「なっ、何を言ってるのよ!リオちゃんが過去の残骸って、何よ!」

フィレアが怒鳴り、

『ロファース君は、サジャエルやクリュミケールのせいで運命に巻き込まれたようなものですから。だから、僕はサジャエルを憎んでいましたし、今もこうして生きているクリュミケールを嫌悪しています』

カルトルートはクレスルドの言葉を思い浮かべ、

「そうだよ!お前は確かにお姉さんのことを嫌っていたけど、ロファースはもうーー!」

カルトルートが言おうとしたが、クリュミケールが制するように彼に目配せをして首を横に振ったのでカルトルートは言葉を飲み込んだ。

「消し去りたい、ね。それはどうやって?もう魔術はないんだぞ‥‥【紅の魔術師】さん」

クリュミケールがそう言えば、一同はクレスルドを凝視する。
名を聞いたことはあった。
過去に多くの神に対する仕組みを作った者だと。
サジャエルのもとにいたシュイアも、彼が【紅の魔術師】だとは知らなかった。

「ええ。そうですね。魔術が使えない僕はもう燃えカスみたいなものです。けどね」

クレスルドの後ろでラズがため息を吐き、クリュミケールの前まで歩けば、後ろ手に隠し持っていた長剣を差し出す。
よく見れば、足元までついたローブでわからなかったが、クレスルドは腰元に剣を携帯していたようで‥‥

「ちょっとラズ!あいつの味方なの!?」

フィレアが怒鳴るように言えば、

「ちっ、違うよフィレアさん!むしろ敵!」

焦るようにラズが言い、それからクリュミケールを見つめ、

「色々ややこしい奴だからさ‥‥こいつの過去になんの関係もないクリュミケールさんに託すようで悪いけど、戦ってやってくれないか?じゃなきゃ、いつどこでクリュミケールさんを殺そうとするかわからない」

なんて言われた。クリュミケールは息を吐き、差し出された剣を受け取る。
それからクレスルドに振り向いたが、

「だがクナイ。戦えと言っても、家の中‥‥ましてや街中じゃ無理だぞ」

そう言ってやれば、

「僕の秘密の場所だったんですけど、なんの因果か君が見つけたあの場所‥‥フォードがよく見渡せる場所で待ってます」

クナイはそう言って、フィレアの家を後にする。

「おい、どうするんだ?」

カシルに聞かれ、

「どうするもこうするも行くしかないよ。さっき軽く話しただろ?あいつは‥‥サジャエルを憎んでるんだ。神々を憎んでるらしい。ロファースを巻き込んだサジャエル‥‥召喚の村で過去のサジャエルに干渉した私を憎んでる」

故郷の名を聞き、あの日、クリュミケールに出会った幼きシュイアとカシルは目を細めた。

「私が干渉したから、サジャエルは【見届ける者】の存在を見出だした。私が手を貸さなかったから、その後でリオラを【見届ける者】とし、エウルドスという国を手中に納め、魔物を生み出し‥‥過去の残骸か。確かにある意味そうなのかもしれない」

クリュミケールは顔を上げる。

「あの日を悪く思う必要などない。どちらにせよ、村には創造神が眠っていた。サジャエルはあの日、お前がいなくとも創造神を滅ぼす為に必ず現れた。必ず村を滅ぼした‥‥村人は全員、死んだ。お前がいなければ、俺もカシルも死んでいたんだ」

そう、シュイアに言われる。
確かにその通りだった。だが、それでも干渉した事実は変わらないし、救われた者がいた中で、犠牲が増えたことも事実なのだ。

「そうよクリュミケール!あなたがいなければ、私は‥‥シュイアに出会えなかった。捨て子のまま、死んでいたかもしれない」

リオラも言うが、

「ありがとう、二人とも」

クリュミケールはニコッと笑い、

「それでも、その裏で誰かが傷ついていて、それに私が関わっていたのならーー決着をつけるよ。奴が何を考えているのかは‥‥私にはわからないけど」

そう言って、真剣な眼差しを向けてくるラズを見る。ラズは頭を下げ、

「‥‥すまない、クリュミケール。私達の‥‥過去のことに巻き込んでしまって」

彼はザメシアとして、申し訳なさそうに言った。クリュミケールは首を横に振り、手渡された剣を見つめる。

ーーアイムの墓の前でロファースとレムズに待つように言ったが、理由は伏せ、クレスルドは少し遅れるということを伝える。


◆◆◆◆◆

山道のような道を進み、広い海が見渡せ、レイラフォードがよく見える崖の頂上。
その草原に、クレスルドは立っていた。
建物の造形は変わっても、ここは昔とあまり変わらない景色のままだ。

いくつかの足音がして、クレスルドは振り返る。
クリュミケールが前に出て、ラズにカシルにフィレア、シュイアにリオラ、カルトルートがいた。

「悪いな。皆には待ってるように言ったんだが‥‥」

クリュミケールは苦笑する。クレスルドは肩を竦め、

「わかってたことですよ。君の保護者達は君に甘いですからね」

と、やはり皮肉めいて言う。

「‥‥で。本当に戦うのか?」

クリュミケールの問いに、クレスルドは剣を構えた。

「魔術師と言っても、剣の扱いも学んだ時期がありましてね。遠慮せず構えて下さい。僕は君を殺す気でいきますから」

そう言い終えたと同時に、彼は駆け出し、剣を大きく振り上げる。クリュミケールも剣を構え、振り下ろされる剣を受け止めた。
ギギギギ‥‥と、鉄の擦れる音が耳に響く。二人はすぐさま剣を離し、何度もぶつけ合う。
キン、カンッーー!互いの剣がぶつかり合い、確かにそれには重みがあった。
その重さにクリュミケールは歯を食いしばる。
言葉通り、クレスルドは自分を殺すつもりで剣を振っていた。だから、その思いを受け止め、クリュミケールも手を抜かず、本気で剣を振る。

「君は友の為に力を望み、歩んだ。僕は神々や世界を壊す為に力を望み、進んだ」

剣の手を休めず、息を切らすこともなくクレスルドは言った。その様子から、戦い慣れしていることを感じ取る。

「サジャエルと英雄の子であり、不死鳥の契約者であり、その光を滅ぼすことで、過去の残骸はようやく消え去るーー!」

ーーブンッ!力強い声と共に先程よりも重い剣がクリュミケールの剣を弾き飛ばした。クリュミケールの手から剣は放れ、草原に落ちる。
武器を持っていようがいまいがクレスルドには関係ない。彼の剣は止まらなかった。
落ちた剣を拾う間もなく、クリュミケールは向けられる殺意を避けることしか出来ない。

「クリュミケールちゃん!」

フィレアが叫ぶが、

「フィレアさん動かないで!これは私が決着をつけるから!」

クリュミケールは彼女に振り向かずそう言った。

「決着をつけるって‥‥こんな一方的にっ」
「おっ、お姉さん‥‥」

フィレアとカルトルートはおろおろと戦況を見つめ、

「シュイア‥‥!クリュミケール、大丈夫なの!?」

リオラは彼の腕にしがみつき、不安げに聞く。シュイアはただ、黙して戦いを見つめ、カシルとラズも同じように黙って見守るしかなかった。

「君のその目が‥‥!本当に苛立つ‥‥!覚えていますか?先日僕が君を『たくさんの犠牲の上で生きている幸せ者』だと言ったことを!そのくせに、君の目は輝きを失わない!自分が悪いと罪悪感を抱いているはずなのに、それでも生きているーー!」
「くっ‥‥」

激しい追撃を避けながら、クリュミケールは一瞬足元をよろつかせてしまう。
眼前に勢いよく刀身が振り下ろされ、右手でそれを掴んだ。
昔、シュイアから貰った手袋。
ボロボロになって、サイズも小さくなってーーフィレアが大きさを合わせ、縫い直してくれた。
継ぎ接ぎ部分が裂け、切っ先を掴んだ手から血が滲む。
それでも手ごと切り捨てようとせんばかりにクレスルドは剣を圧してくる。クリュミケールはその重みと痛みに歯を軋め、

「紅の魔術師ーー!お前は言ったな。幸せは望まない、大切な友達を救いたい、幸せを願いたい、それだけだと!その想いは、私にも理解できる!お前がザメシアの時代にどう生きたかは知らない!だが、お前は大切なものを見つけた!」

クレスルドにそう叫び、

「レムズが記憶を取り戻し、ロファースが救われるかもしれないーーそれなのにお前は今、何を見ている!何を目に映している!?」

そう続け、右足で彼の腹を蹴り上げ、間合いを取った。

「私を過去の残骸と言ったな!だが‥‥過去に囚われているのはどっちだ!?お前は私に誰を見ている!サジャエルか!?私の父さんか!?それとも、お前の全ての憎しみを私に向けているのか!?お前が‥‥お前が本当に嫌悪しているのは、お前自身だろう!?」
「ーーっ!?」

言われて、クレスルドは顔を上げる。

「父さんは言った!過去の話は知らなくていい、私は前だけを見ればいいって!紅の魔術師と、父さんの友であったザメシアをよろしくと、私に託した!」
「‥‥」

それを聞き、ラズは光景を眩しそうに見つめた。

「お前の罪なんて私は知らない!過去なんか、知らない!だから、現在を見ろ!ザメシアが‥‥そう出来たように!お前の大切な人達の為に!」
「‥‥」

クリュミケールの叫びを聞き、フィレアがラズの背中に手をあてる。
ラズは‥‥ザメシアはいまを生きる道を選べた。全ての過去を、憎悪を昇華できなくても、いまを生きている。

「‥‥くっ‥‥ははは。今を、未来を?なら、君はどうなんだ!君は、君の真実をどうするつもりなんだ!」
「えっ?」

クレスルドはクリュミケールに叫びながら、その切っ先をカルトルートの方に向ける。まるで指を指されるように向けられたそれに、カルトルートは目を丸くした。

「かつての不死鳥の契約者であり神を愛する者。そして【道を開く者】サジャエル‥‥その二人の子供であるカルトルート‥‥!クリュミケール、君の実の弟に真実を伝えようとしないまま、誤魔化して‥‥そんな君に僕のことを諭されたくなんてないね!」
「‥‥」

クレスルドの言葉にカルトルートは唖然とする。
いや、先程それを聞かされたラズ以外は、皆、同じ反応を示していた。
クリュミケールはカルトルートに振り向くことはせず、クレスルドだけを見つめ、

「ちゃんと、話すつもりさ。私の口から、ちゃんと‥‥父さんの想いも、一緒に」

そう、ゆっくりと目を閉じ、

「だが今は、お前との約束を果たすのが先だ。ロファースを救うこと‥‥レムズを助けること。お前を救わなければ、何も叶わない」
「何も、出来ないくせに‥‥レムズは確かに戻った!でも、ロファースは、ロファースは‥‥!サジャエルの歪んだ思想と僕の過去のせいで苦しめてしまった彼は‥‥!」
「‥‥っ!」

クリュミケールは駆け出し、クレスルドの頬を殴った。衝撃で彼の体はよろめき、銀の髪と紅の目が再び露になる。

「もう‥‥いい加減うんざりなんだよ!」

クリュミケールは涙をこぼし、力一杯に叫んだ。

「どうして皆、過去に囚われ続けるんだ!罪を抱えながら生きることは出来るのに、なぜ罪に足を取られて前に進まない!どうして誰かに誰かを重ねて‥‥自分を苦しめ、誰かを傷つけながら生きる!?神も女神も死んだ!【見届ける者】も‥‥死んだ!私はリオだ、クリュミケールだ!過去の残骸じゃない‥‥ニキータ村の、アドルの家族だ!」
「‥‥」

クレスルドは紅の目でクリュミケールを睨み付ける。

「リオラに全てを押し付けたまま、私はハトネと共に女神として消滅するはずだった。だが、アドルの声に救われた。一筋の光が手を差し伸べてくれた。私は‥‥帰ろうと思った、生きようと思った。帰らないまま家族を悲しませるよりも、全ての過去を忘れないまま、でも、囚われないように、未来に進むと決めた!」

クリュミケールは髪を束ねたエメラルド色のリボンをほどき、それを見つめる。
シェイアードからの、初めてで、最後の贈り物だ。

『お前はお前の時代を生き、思うままに生きろ』

過去に囚われないように、シェイアードがくれた言葉。そして、懐に忍ばせていた、先程シュイアから手渡された一冊の本。
結末は知れた。母親の形見に触れれた。
その本にリボンを巻き付け、眼前に広がる海にそれを放り投げる。
はるか崖の下に落ちていき、海の底へと沈み行く。

本の存在を知っていたシュイアとリオラは絶句した。
クレスルドも知っていたのだろう、

「‥‥そんなに簡単に、シェイアードを‥‥愛した世界を捨てるのか?」

そう問われ、クリュミケールは晴れやかな顔を彼に向ける。ほどかれた金の髪が風に揺れ、

「私が忘れない限り、いつでも思い出せる。私とお前とじゃ、生きた年数は全然違うと思う。だから、過去の重みは比べようもないけれどーー私は振り返らないよ。後悔も全て、前に進めていく」

血の滲んだ右手を握り締め、真っ直ぐにクレスルドを見た。それでも彼は、剣の柄を強く握る。まだ、何も終わっていないと言うように。

だがそこで、二人の間にヒラヒラと黒い羽が舞い降りてくる。鳥、だろうか。

「リオ‥‥!!」

すると、息を切らした、それでも綺麗な声が後ろから響いた。振り向けば、お忍び衣装を着てこちらに走ってくるレイラ・フォードの姿が見える。

「女王様!?」

思わずフィレアが叫んだ。

「ははっ!相変わらず血生臭いことやってるなぁー!」

なんて、頭上から聞こえる声に、クリュミケールは驚くように曇り空を見上げる。

「なっ‥‥まさか」

その声に、姿に、目を見開かせた。
黒い翼を羽ばたかせたそれは、クリュミケールとクレスルドの間に舞い降り、草原に足をつける。

「いやぁー、久々じゃん、リオちゃん」

鋭く長い耳を持ち、炎のような夕日色の髪に、夕日色の目をした黒い翼を広げる男がそこにはいて‥‥

「ロナス‥‥生きて、いたのか」

クリュミケールは目を見開かせたまま、この人生の中で一番憎んだ男ーー悪魔を凝視した。しかし彼は、黒い正装のような服を着ていて‥‥
だが、そこでレイラがクリュミケールの元まで辿り着き、

「はぁっ‥‥はあっ‥‥ろっ、ロナスから聞いたのよ!リオがピンチだって!」
「えっ!?」

レイラの口からロナスの名前が出て、クリュミケールは尋ねようとするが、

「まあまあ、そこらは後でいーじゃん。今はーーよお、二年振りだなぁ、紅さん」

ロナスはクレスルドを見てケラケラと笑う。

「‥‥ロナス。君が生きていたことは別にどうでもいい。でも、何をしに来たんです?今は邪魔をしないでくれますか」

クレスルドが言えば、

「別に邪魔はしねーよ。女王さんにリオちゃんヤバイかもーとか言ったら、助けに行けーって言われたんだけどさぁ、必要ないじゃん。こりゃどう見ても、紅さんの負けだぜ」
「僕の負け?」
「そそ。リオちゃんは敵に回さない方がいいぜー。正論ぶら下げてしつこいぐらい追い回して来るからさぁ、しんどくなるぞー」
「はぁ?」

ロナスの言葉を聞き、クリュミケールは眉間に皺を寄せた。ロナスはクリュミケールに振り向き、

「さあさあリオちゃん帰るぜー」

そう言ってクリュミケールの肩を押し、

「そうよリオ!帰るわよ!」

レイラまで言う。

「なっ、なんなんだよ!まだ奴と‥‥」

クリュミケールが焦るように言うが、

「今さっきロナスから聞いたわよ!なんだか知らないけど、その人がリオに濡れ衣をかけてるんでしょ!?」
「はぁ?濡れ衣って‥‥レイラ、落ち着いてよ」
「落ち着けないわよ!」

レイラは大声で怒鳴り、

「私はあなたの親友よ!あなたがピンチの時は私が助ける!私がピンチの時はあなたが助ける!そうでしょ!?」
「いや、別に今、ピンチじゃ‥‥」
「あなたはピンチなの!わかった!?」
「あ、ああ‥‥」

いつもながらの一方的さに、クリュミケールは肩透かしを食らう。

「はあ‥‥」

すると、クレスルドのため息が聞こえてきてクリュミケールは振り返った。

「いいですよ、もう行って下さい、クリュミケール」

呆れるような顔をして彼が言い、「でも」と、クリュミケールが渋るように言えば、

「なんか、馬鹿馬鹿しくなりました。だから、もういいです」

なんて言うので、

「‥‥あのさ、クナイ」
「クナイは別の人の名前です」
「‥‥あ、そうなのか?じゃあ、紅の魔術師。フィレアさんの家の庭にある、アイムさんの墓のところに行ってくれるかな。実は、レムズがお前に話があるって、待ってるんだ」

ロファースが目覚めたことは伝えずに、俯いた彼を心配そうに見つめながら、レイラとロナスに押されるようにクリュミケールは仲間達の元に戻る。当然、一同はしれっと現れたロナスを睨み付けていたが‥‥
カルトルートだけは不安げにクリュミケールを見つめていて。

「一旦、戻ろう。話すよ、ちゃんと」

カルトルートの横を通り過ぎながらクリュミケールは言った。

「ラズ?」

その場から動かないラズにフィレアが声を掛けると、

「先に行ってて。あいつと少し話をするよ」

ラズは言い、クレスルドの方へと足を進める。

まるで虚無感に包まれるように立ち尽くすクレスルドの前に立ち、

「どうだ?まさかの邪魔が入ったが、気持ちは晴れたか?」
「‥‥妖精王様は知ってたんですか?ロナスのこと」
「まあ、な。色々あって、奴は今、レイラのことをサポートしてる」
「へえ」

自分から聞いたくせに興味なさげに相槌を打つ彼を呆れるように見つめ、

「クリュミケールが言ったように、君はもう前に進んでいるんですか?」
「‥‥言っただろ?僕は終わりの日まで、ラズとして頑張るってさ。それにーー‥‥」

ぽつぽつと、曇り空から滴が落ちてくる。

「フォードはもう、お前が見守らなくても大丈夫だ。過去の、クナイ王の名に縛られる必要もない。この国は、レイラが護る。皆が、彼女を支える。一度間違えたからこそ、レイラはもう、国を棄てはしない。それに、僕がいなくなっても、フィレアに託せる‥‥」

ラズは俯いたままのクレスルドの頭を小突き、

「お前の名前、僕は知らないけどさ。もう、クナイも紅の魔術師も棄てろ。それで‥‥行ってこい。行って、クリュミケールがお前にもたらしたものを、見届けてこい」

言われて、クレスルドは不思議そうにラズを見た。



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