欠落世界で再会する誓いし者


「感謝しろだと?お前がこの世界を壊す?なんだよ、クル、お前、よく言う神様にでもなったつもりかよ?」

ミモリはクルエリティの方を向きながらそう言って笑う。

「神様、ね。まあ、魔女だ魔王だいるんだ。それでこそ、なんでもありな夢の世界なんだろうね」

ニコニコと、笑顔のままクルエリティは答え、

「それで?何かな。リア爺から殺したらいいのかな?そうだねぇ‥‥偶然、島に流れ着いた僕を閉じ込めて、右目をハサミで抉り取り、右腕をハサミで骨ごと時間をかけて砕き‥‥そう、そうだね‥‥あは、ははは、そうだねええぇぇぇぇえ!?殺すには充分だよリア爺!!!」

狂気的な笑い声を響かせて、クルエリティは左手にナイフを握り締め、ミモリの方に向かって走り出した。
それを見ていた囚人は、赤髪の魔王のことだからそれを簡単に避けるんだとか、魔法とやらを使って何かをするのであろうと、妙な安心感を抱いていた。だから、静観した。緊迫することもなく、ただーー。

ズブリ、と。
ただ、赤髪の魔王の心臓が、ナイフでズブズブと貫かれていく様子を、呆然と見ていた。

誰もなにも言葉を発さない。
ナイフで刺されたミモリでさえ、痛みに呻くこともなく、何も言いはしない。
そこでナイフの動きは止まり、

「‥‥なんで、刺された?」

そう聞いたのは、未だミモリの心臓にナイフを貫かせたままのクルエリティだ。

「リア爺‥‥君なら何か出来たはずだ。僕には復讐しかない。だから、君達を苦しめ殺すのが僕が救われる道。だが、僕はわかっていた。僕ごときじゃ君達を簡単に仕留められない、無様に惨めに返り討ちにあうだけだと‥‥だからなぜ、何もせず刺された?僕を馬鹿にしているのか?」

低い声で、ただ静かに、左目でミモリを睨み付けながらクルエリティは問い掛ける。
どこか先程までの彼とは違い、それはまるで、無。
生気の抜けた虚ろな表情をしている。

「‥‥馬鹿になんてしねえさ。お前の勝ちだよ、クルエリティ。囚人と姉さんにお前が敵うかは知らねーが、俺はお前に負けた」

ガシッと、ミモリは自分にナイフを貫かせたままのクルエリティの左腕を掴み、

「俺は、お前にもう、何も出来ないからよ」

真っ直ぐにクルエリティの顔を見て、ミモリは両目に涙を浮かばせた。

「悪かったな、クル。痛い思いさせて‥‥お前にかけちまった呪い、もう、解いてやれなくて。お前をこんなにしちまったのは、全部‥‥俺のせいだ。あの集落に、俺に出会わなけりゃ‥‥お前は‥‥いいや、違うか。偶然なんかじゃねえ‥‥そう、だよな‥‥お前は、最初から、辛かったんだよな?幸せに‥‥なりたかったよな?」

そう、しっかりと目を見て言われ、何かを見透かされているような気味悪さを感じながら、クルエリティは歯を軋めてナイフを引き抜いた。

「‥‥っ」

ナイフが引き抜かれた部分から血が跳ね飛び、ミモリは立ち眩みを起こしながらもなんとかその場に踏みとどまる。

「なあ、クルエリティ。お前を救えるのは、一体‥‥誰なんだろうな?俺が死ぬだけじゃ‥‥その目、まだまだ復讐から逃れられない、か」

クルエリティの目は未だ、ギラギラと殺意と憎しみにまみれていた。

「じ‥‥ジジイ」

ミモリの後ろで、囚人が声を震わせている。それに対し、ミモリは小さく笑い、

「その様子じゃあ、やっぱお前はわかってたんだな、俺が死ぬ気でいたこと。いや‥‥システルも、わかってたか。くはっ、さすがは‥‥」

言葉の途中で咳き込み、ゴホゴホと血が口内に滲む。
倒れそうになったその体を、駆け寄った囚人が支え、その隣にフェイスもいた。

「‥‥囚人、フェイス。泣くなよ」

ミモリは二人の顔を見て、弱々しく笑う。そんな彼の様を囚人が見るのは、これで二度目だった。

「あとは、お前らに任せたぜ。守るべきものを、しっかり守れよ、囚人」

ドンッと、ミモリは囚人の胸を叩く。

「ロス‥‥いえ、ミモリさん」

凛とした声がし、透き通った青い目がミモリの視界に映る。
彼女は、システルは涙を堪え、ただ一言、

「ありがとう」

それだけ伝えた。
もう、話すべきことはさっき全て伝えた。
だからこそ、ミモリもシステルの顔を見つめ、静かに笑みだけを返す。
その後ろに立つディエを見れば、相変わらず彼は悲しい表情すらしていない。

「本当は、お前にシステルか姉さんか‥‥任せたかったんだが‥‥ロスだったら強制なんかしないよな‥‥ロスだったら、最後まで自分で守ったんだろうな‥‥約束だ、ディエ。この世界は、夢だ。消えた魂も‥‥きっと何処かに在る。ーー生まれることの出来なかったクルが、そうだったように」

そのミモリの言葉に、囚人が不思議そうに彼を見た。

「だから、ヴァニシュちゃんに約束したように、この魂で、ヴァニシュちゃんを一人には、しない。そこは、安心してくれ」
「‥‥」

その言葉にディエは目を閉じ、

「‥‥だったら俺も約束してやるよ、ロス。システルのことは、生かしてみせる。ロスがそうしてきたように。お前のねーさんとやらは‥‥思い出せねーからどうも出来ねえ。なんだかんだ、お前には色々世話になったからな。だから‥‥あいつを頼んだぜ」

そう言われて、出会った頃の身勝手さをなくしたディエの言葉にミモリは少しだけ驚いたが、すぐに微笑んで頷く。
そうして、ゆっくりと頭を持ち上げて、力をなくした魔女の姿を見つめた。
魔女は、姉は、こんなになっても自分を見てはくれない。もう、昔とは違う。

(‥‥姉さん、僕は‥‥)

ミモリは姉の姿を最期に焼き付けながら静かに目を閉じ、

「さあ‥‥囚人、フェイス。これが、赤髪の魔王様の、本当に本当の、最期の魔法‥‥だ。さあ、皆で‥‥星空を」

大きな満月と、眼前に広がる星空。
つくりものかもしれない。
でも、それでも、これで小さな願いは果たされるのであろう。

まるで、本当に夢だったかのように、その身を残さずに赤髪の魔王の体は消えていった。

「‥‥ジジイ」

その身を抱えていた重みが腕から消え、囚人はぐっと拳を握る。

「さあ囚人。かなしいかなしいお別れの劇は終わった?次は君と、魔女さんの番だよ?」

そこで、黙って光景を見ていたクルエリティが、ミモリを刺したナイフを持ったまま笑って言い、

「‥‥なんだよクル‥‥自分ごときじゃ俺らを仕留められるかわからないって抜かしてたばかりだろ」

涙を拭いながら囚人が立ち上がって言えば、クルエリティは首を傾げ、

「何を言ってるんだい?あー、やっと一人殺したけど、おかしいなぁ。全然、頭の中がスッキリしないや。なんだろうね?」

と、先ほど自分が言った言葉をもう忘れているかのような素振りで、

「まあいいや!さっさと終らせちゃおう、囚人!‥‥と見せかけて、がら空きだよ、魔女さん!」

ぼんやり立ち尽くしたままの赤髪の魔女に向き直りながら彼女に切っ先を向けたので、

「やめろクル!!」
「シャイさん何ボーッとしてるの!?」

囚人とシステルが同時に駆け出した。

「ははっ、遅‥‥」

だが、そこでクルエリティの体がピタリと止まる。

「あらぁ‥‥これがあのクル?なかなかいい男になったじゃないの」

ねっとりした声の主が、クルエリティの右腕を物凄い力で掴んで離さない。

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
「そうですよ、私達にだって、僅かな時間しかないんですから」

少年と、女性の声。

「あ‥‥」

それに、その姿に、囚人は目を見開かせて言葉を失い‥‥

「別れがあれば、出会いがある。でも、すぐに別れがくる‥‥待たせたね。フェイスーーもう、泣かなくていい。もう僕は、あの日のように逃げない」

フェイスの前に立つ、黒いコートを身に纏った青年がそう言いながらクルエリティを見据え、

「残された時間は少ない。出来ることも少ない。けどーーここまで囚人が繋いでくれた道がここに在る。赤髪の魔王の弟子として、僕があの人の尻拭いをしてあげるよ」

青年は、ユーズはそう言った。


・To Be Continued・

空想アリア



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