未来へ残された光
「おっと!?」
「きゃあ!」
何かに弾き飛ばされ、囚人とフェイスは小さな悲鳴をあげた。
今まで真っ赤に染まった大地の街に居たというのに、そこは建物ーー廃図書館の中で。
「どこだよここ、本だらけだな」
囚人がキョロキョロしていると、床に座り込んでいるロスの姿を見つけた。
「お前は俺達の過去をすでに知っているからな、時間を無駄にする必要はない」
ロスはそう言い、
「確かに‥‥お前を看取った際、お前の妙な魔法かなんかで俺の中にお前とアブノーマルの過去が流れ込んで来たが‥‥なんでロスの中にジジイが居るんだよ?」
囚人は疑問をぶつける。
「まあ、それは後でちゃんと話すさ。俺自身、今ややこしいんだよな。ロスとメモリーの意思がごっちゃで‥‥集落のことも、あいつらのことも、アブノーマルのことも、どれを優先すべきかって感じ」
ロスは苦笑し、
「お前は?囚人。お前はなんの為にここに来た?妹の為か?」
そう聞かれ、
「‥‥知ってるのかよ」
「魂だけになって見てたからな。まあ、なんだ。旧知の魔王が‥‥さっき声がしてたろ?コアって奴。あいつの力は死者の魂を所持することなんだ」
「魂を、所持だ?」
囚人は眉を潜めた。
「ああーー。まあ、それも後で。質問に戻すけど、お前はなんの為にここまで来た?」
「‥‥はあ」
ロスの問いに、囚人はため息を吐き、
「お前が死んだからさ、俺がお前の姉を止めに行こうと思ったのに、お前、そんな形で生きてるとか、なんなんだよ」
「はは、なるほど、そうだったか。そりゃ悪かったな」
「だが‥‥」
囚人は真っ直ぐロスの目を見つめ、
「だったら、クルにかけた、名を縛る呪い、解けるのか?」
少しだけ期待が混じったその声に、しかしロスは首を横に振り、
「さすがに、力までは戻らない‥‥あいつは、名前通りに暴走しちまってるな」
申し訳なさそうに言う。
「でも、家族だから取り戻すんだよね。クルやんのことも、魔女のことも」
それまで黙っていたフェイスがそう言えば、囚人はまた苦笑し、ロスであり、メモリーは目を丸くして‥‥
目の前に居る、道化のまま、透けた体をしたフェイスを。
囚われてしまったクルエリティを。
デシレを、フォシヴィーを、ナツレを、そしてユーズの姿を思い浮かべ、それらは全て、自分のせいであると、ようやく赤髪の魔王は受け止め、座り込んでいたその場から立ち上がる。
立ち上がって、
「‥‥ああ。あいつの弟、メモリーとして。あいつの仲間、ロスとして。俺は、迷う必要なんか、ないんだ。システルには、ディエが、ヴァニシュちゃんが、囚人がいる。だが、アブ‥‥シャイとクルエリティは、ひとりぼっちだ」
それは、魔女により、あの屍しかない集落に縛られていた時の自分と同じ。
囚人が訪れ、魔女の力を壊してくれたからこそ、赤髪の魔王は孤独ではなくなった。
ひとりぼっちの、バケモノみたいな、愚か者ではなくなった。
それは、何も持たない子供だった時と同じ。
ふとした日にシステルが現れ、お互いに依存し合って、一人ではなくなった、孤独から解放された。
「背負いこむなよ、ジジイ。いや、ロス?ミモリ?ややこしいな。まあ、なんだ。お前だけじゃ止められねーよ。クルは、俺らのこと相当憎んでるし、アブノーマルだって、かなり俺とお前を嫌ってるからな!一筋縄じゃいかない」
囚人は火傷の痕を指でなぞり、
「だから、その為にあいつらに過去を見せてるんだろ?今、見てんのかな?アブノーマルと対峙した時、まさかシステルと知り合いで‥‥ましてやディエだったか。あいつぐらいか?アブノーマルーーシャイをなんとか出来そうなのは」
「‥‥確かに、な」
ロスは頷き、
「アブノーマルはしばらく俺らの中から奴自身の記憶を消してたが、お前と対峙したことで力が弱って‥‥だが、それでも頑なに、ディエだけはシャイのことを思い出していない。それは、そういうことだな」
それが、シャイの弱味だと、ロスは言う。
囚人はうんうんと頷いていたが、
「いや待て!!システルもディエが好きなんだろ?!どうすんだよ!」
「‥‥いざ、妹を目にしてみたら、やっぱかわいかったわけ?あーあ、フェイスが嫉妬しちゃうぜ?なあ、フェイス」
「してない!お爺やんのバカっ!!」
「ん?でも待て、確かロスはシステルが好きだったな!?どうなんだジジイ!?」
「くはっ、知るかよ」
しばらくそうして他愛のない話をして、その中で、なぜロスとメモリーがこうなったか、コアの存在をも伝えーー。
「さて、俺らだけでも先に動くか。たぶん、クルエリティがアブノーマルを殺しに向かってる。魔女相手に返り討ちにあうのは目に見えてるけどな」
ロスが言って、フェイスをじっと見る。
「くはっ、弟子も、あいつらもいることだしなぁ。家族全員で、お出迎えしに行ってやろうぜ」
そう、悪巧みするように笑ったロスの顔を、フェイスも囚人も不思議そうに見ていた。
・To Be Continued・
空想アリア