ナエラと謎の少年

つい、先日の話。
なーんか知らないけど、あの天使の女が逃げたらしい。
て言うかそもそも、ネヴェルちゃんが牢屋から出したとか言うし!
あのお飾りの王子様に会わせたとか言うし!
そりゃ、あの頼りない王子様が天使の女を逃がしたんでしょ。

しばらく捜したけど、天使の女の行方は知れず。
ネヴェルちゃん曰く、なんとあの女は魔界で暮らしてたそうで、天使のくせに魔界でも力を使えるらしい。

…ただ、そこまでの戦う力はないそうで。

数日経った今でも見つからない。
魔王様もまだ不在らしいし。

しかもしかも、ついさっき。
なんかまた人間界に繋がる扉が開いたみたいだし!

人間は扉のことを知らないし開けないから、また天使だろうけど…
いったいこの頃なんなのかなぁ。

とりあえず、扉の付近にはもう姿はなかったから、手の空いてる魔族数人で手分けして捜索中。

「あーもう。メンドクサイなぁ」

ボクはそう言って、翼を閉まって紫色した大地に足を着けた。

「ん?」

すると、少し離れた場所で何かが光ったことにボクは気付く。
念のため、ボクは用心しながらゆっくりゆっくりと近付き…

光っていたのは剣だった。

剣……と言うか、それを大事そうに抱えてる奴。

「!」

そいつは、黒髪の男はボクを見てビクッと肩を揺らした。

あ、たぶん、こいつだ。

耳も尖ってないし、服も魔界のとは違う。
何より、魔界の気を感じない。

でも、髪が金ぴかじゃないなぁ。真っ黒だ。
早速、魔界の空気にやられたのかしらね?

「あんたね、扉を開いたのは」

ボクは男に言いながら、警戒の意を示すように翼を再び出す。

「なっ、なっ、なんだあんた!?」

男はボクを指差した。

「はっ、羽!?黒い羽!?耳も尖ってるし!?」
「はぁー?魔族だからに決まってるでしょ。天使のくせに魔族の形も知らないの?」
「ま、魔族!?天使!?」

男はめっちゃくちゃ驚いて叫んでる。
なんなわけ?こいつ。

「ちょっとあんた何?なんの目的でここに来たわけ?この前の天使の女と仲間?」

ボクの質問に男は驚いて口をパクパクさせたままだ。

「何か言いなさいよ!あの女と同じね。最近の天使はなんなのよ!」

あの天使の女もはっきり喋らなかったし。
まぁ、あの女、ネヴェルちゃんに手を出したけど…

ボクが苛立って言えば、

「きっ、聞きたいのはこっちだ!それに、オレは人間だ!」

と、男は叫ぶ。

「……」

ボクはそんな男をじっと見て…

「はあぁあー!?人間!?あっはは、そんなわけないでしょ。人間は扉を開けないんだよ?そんな簡単な嘘吐いて、あんた何が目的なわけぇ?」

馬鹿にするように笑い、ボクは男に言ってやる。
たかが人間が、ここに来れるわけないし。

「うっ、嘘じゃねえし!オレは人間だ!」
「ああもうしつこいなぁ。わかった、そこまで言うなら血の味で確かめてあげる」
「へ!?」

ボクは男に牙を見せつけた。
ボクは吸血種だ。
吸血種は味を覚える為に、昔々の戦争時代から保管されている天使や人間の血を幼い頃に飲む習慣が義務付けられてる。

人間、天使、魔族。それぞれの血の味は微妙に違うから、吸血種は、種族を判別するための役割もあるんだ。

「血!?血の味って!?なんなんだ!?オレを食う気なのか!?」

男はパニックになっていた。

「大袈裟な奴だなぁ。いいから大人しく…」

ボクが男の腕を掴もうとしたら…

――パンッ!!

「痛っ!」

ボクの手は弾かれた。
何、今の。
何か、魔界には不釣り合いな光と…まるで、聖気。

ボクは弾かれた自分の手がやけにヒリヒリしたから見てみれば…
ボクの手が軽く火傷したみたいになってる!?

「なっ、何をした!?やっぱり、人間じゃないな、お前っ!?」
「し、知らねえよ!こっ、この剣がっ」

男は自分もまるで何もわからないと言う風に首を横に振り、さっきから抱えてる剣を見て言う。

「はあ?そんなただの剣が何だって言うの?!」

ボクは今、物凄く苛立っていた。
ボクはそのまま、その剣に手を伸ばす。

――パンッ!!

「キャッ!?」

しかし、さっきと同じだ!
妙な光が、ボクの手を弾く…!?
確かに、男が言うように、この剣が原因らしい。

「な、なんなわけよその剣!かなり危ないじゃないの!なんであんたは持ってて平気なわけ!?」
「平気って言うか……わかんねぇ」
「はぁ!?」

男はボクを訝しげに見て、

「と、とりあえず、あんたは怪しいってことは、なんとなくわかる」

なんて、言ってきて…
ブチッ…と、血管が切れたような気分にボクはなる。

「はぁー!?怪しい?ボクが?ボクからしたら、あんたのが充分怪しいわよ!いいよもう、メンドクサイ!ちょっとボコるよ今からあんたのこと!!」

ボクは手に魔力を溜める。
迂闊に触れば、謎の光が弾いてくるし、魔術なら大丈夫でしょ。

「ななな、なんだよその黒い塊!」

男はボクの右手にこめられた黒い光、すなわち魔力を見て驚く。

「えー?さすがに魔術を知らないってことはないでしょ?どこまでが演技なわけ?」
「演技じゃ……うわっ!!?」

ボクは魔術を男に放った。少しの加減はしてやったから、まあ、ギリギリ死にはしないでしょーね。

――シュンッ…

「……え?」

しかし、ボクは、間の抜けた声を出してしまう。
今、ボクの横を、何かが横切った。
そして……

――ドンッ!!

背後で、かなり遠くで大きな音がして、ボクは……

「う、ウソ……でしょ。な、なんなのよ」

ボクは、驚愕した。
この、ボクが?

男に放ったはずの魔術。
しかし、男は無傷だ。
男も、ボクと同じように光景に驚いている。
と言うか、かなり恐怖してるのか、男は額からダラダラと汗を流してる。

さっき、ボクの横を横切ったのは、ボクが放った魔術。
原因は、やはり、男が抱える剣。

その剣は、魔術までもを弾いた…
弾かれたボクの魔術は、遠くで何かにぶつかって、消えた。

ウソ、ウソだ。
ボクが、震えている。
上魔で、悪魔に近い、ボクが。
得体の知れない存在に!?

「お、お前……バケモノか?」

魔族であるボクが、そんな台詞を男に吐いた。吐かざるを得なかった。

「…お、オレは、人間、だし……」

つーか、なんなのよ。
男自身もめっちゃくちゃ震えたままだし。

とりあえず、ボクは冷静になる。ならなきゃ、たぶん話が進まない。

「…ホントに、あんた、人間なわけ?」
「お、おう」
「なんで魔界に来れたわけ?」
「なんか、知らない男が、魔界へ行けとか言って、気付いたらさっきここに居た。って言うか、魔界とか、本当に本物なのか?神話の中だけの存在じゃないのか?これ、夢!?」

あー、ダメだ。
男はパニックになってる。

「とにかく、あんたをネヴェルちゃん所に連れてくわ。ネヴェルちゃんならそんな剣に負けない」
「ね、ネヴェルちゃん?」
「そう。ネヴェルちゃん。この魔界で一番ステキな存在よ」
「へえ……素敵ってことは、美人な女の人ってこと?」
「なに言ってんの!?ネヴェルちゃんは男!その剣を取り上げてボコるわよ!?」
「え、いや、だって、ちゃん付けしてたから…」
「ネヴェルちゃんを侮辱しないでよね!」
「してないし!知らないし!」

ボクは苛々しつつ、考える。
転移魔術で城へ帰りたいけど……
さすがに、転移魔術は弾かれたりしないわよね?攻撃じゃないし…

ボクはため息を吐き、

「とにかく、あんたを連れて帰って、話はそれから」
「ちょっ!連れて帰るって…オレをどうするんだよ」
「まずはあんたが人間か天使か確かめる。で、あんたを拷問でもして、何しに来たのか事実を吐かせる」
「は、はあ?!だから、人間だって!言うことなんか何もないし!」

男は首をぶんぶんと横に振って、

「行かねえ!やっぱ、信用ならねぇよ!」
「うっさいわね!魔界で信用とかそんな言葉は不要よ!とにかく魔術で連れて行くからちょっとだけ近くに来てよ。でも、あんま近付かないでよ?あんたなんか好みじゃないし、危ない剣持ってるし!」

ボクがそう言えば、

「オレだってあんたみたいなチビに興味ねえし!」
「チビ!?チビですって!?ボクはこれでも大人だよ!」
「大人!?でも背はチビじゃん!チビ!」
「なっ、なっ、な……ボコる!!」

ボクは顔を真っ赤にして、全身熱くなって叫ぶ。
すると、すかさず男はボクの前に剣を突き出して来て、ボクは慌てて後ずさった。

「お、お前!卑怯ね!?」
「知るかよ!と、とりあえず、なんかあんたはこの剣が駄目らしいからな!オレも自分を守るので精一杯だ!」
「くっ…!」
「た、ただ、拷問とか、そんなんしないなら、着いてく」

男は言った。

「オレ、本当に魔界とかって無いと思ってたから。だから、どうしたらいいかわかんねぇから、とりあえず、あんたに着いてくから、話を聞かせてほしい」
「…」

さて、どうしたもんかしら。
演技なのか、事実なのか。

「ホントに大人しく着いて来るわけ?」
「お、おう」
「わかった。なら、来なさい。あ、さっき言ったようにあんま近付かないでよね、謎の少年ちゃん」
「謎の少年ちゃん!?オレはジロウって名前があんだけど」
「あんたの名前に興味ないの」

ボクは、ジロウとか名乗った男に言えば、

「…別にいいけどさぁ。じゃあ、オレはあんたをヒステリック女って呼ぶ」
「ひすて、り?」

何だ?何語だ??

「ヒステリック知らないのか?」
「知らないわよ」
「怒りっぽいって意味」
「ふーん…。って!!?」

怒りっぽい!?ボクが?!

「お前っ、ボコ…」
「ほら、また怒る!」

言われて、ボクは我に帰る。

ああもー!
ボクは上魔なんだ!
こんな得体の知れない奴に調子を狂わされるだなんてどうかしてる!

ボクは転移魔術を唱える前にギロリとジロウとか言う男を睨み付けてやった。
ジロウとか言う男はビクビクと怯えているがしかし、剣が強みなのだろう。

「つ、連れてくなら、は、早く連れてけよ、ヒステリック女」

なんて、怯えながらも悪態を吐く。
ボクはそれに……

「うがぁあぁああっ!!」

…だなんて。
苛立ちを発散させるように叫んでいた。
こんな姿、ネヴェルちゃんに見せれない…。
とにかく早くこのジロウとか言う男を城に連れてって牢屋に放り込んでやる!!


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