ジロウとテンマ

天の光、注ぐ地
魔の闇、眠る地
人の無、標す地

その地に建つ宝、世界を繋ぐ鍵とならん


オレは、先刻出会ったばかりのテンマの持っている石板に記さた言葉を思い浮かべていた。
そういや、宝とか、世界を繋ぐとか、なんなんだ?

「そういえば、新米くん」
「いっ、いい加減、名前で呼べよ!」

しかし、テンマはそんなオレの言葉をスルーし、

「君さ、旅人の休憩所に居たけど、もしかして何処かへ行く予定だった?今から向かう銅鉱山は君の家の近くなんだよね。もしかして、逆走させちゃったかな?」

そのテンマの言葉にオレは数回瞬きし、

「いっ、今更かよ!」

と、叫んだ。

「いや、まあ、実はオレ、まだ新米だからさ。その銅鉱山しか行ったことなくて。今日は違うところに足を運んでみようかなと思ってたんだ」
「……ふふ」
「なっ、なんだよ!?」

オレの言葉にテンマが嫌味に笑うため、

「いやー、やっぱ新米くんは新米くんだなと思ってね。やっぱり君はその銅鉱山からまだ離れられない運命なんだよ」
「んだと!?」
「でも、本当のことだ。君の知識や力量では、まだ新しい地へ発つのは厳しいと思うよ」

(こっ、こいつー!出会ってまだ数時間なのに、なんなんだよ!)

オレは嫌な顔をしてテンマを睨む。

「確かにオレは、まだまだ未熟だ。…トレジャーハンターの職にやる気を出し始めたのも、ついこの間からだし……」
「何か転機でも?」
「まあ…」

オレはあの日、いつもの銅鉱山で生憎の天気の中、謎の少女と出会い、助けられ、その場で拾った真っ白な1枚の羽を鞄から取り出した。
オレは、自慢気にテンマにそれを見せ、

「これさ、オレの御守り…」
「……。……!!お前……それを何処で!?」
「へ!?」

出会って数時間。
しかし、嫌味で冷静だったテンマがいきなり取り乱すように大声で言ってきた為、オレはめちゃくちゃ驚いた。

「て、テンマ?どうしたんだよ」
「……っ!…あ、いや、失礼。ごめんごめん。珍しい……鳥、の羽だったからさ、ちょっと興味が湧いてしまったよ」
「そ、そっか」

それなら、いいんだけど…と、オレは苦笑する。

「でも、やっぱりこれって珍しい?凄い綺麗な羽だよな」
「……ああ。それを、どこで?」
「これもさ、今から行く銅鉱山で……」

オレはテンマに話した。
あの日、怪我して、女の子に助けられた、あの、まるで奇跡のような話を。

オレがあの日のことを話し終えれば、

「…それで、君は世界の不思議さに興味をもった…ってわけか」

テンマは静かに言い、それから、

「ありがとう、新米くん。とても有益な話だった」
「へ?」
「その羽は、もしかしたらその少女の物で、少女はもしかしたら天使だったのかもね」
「……は、はぁ」

天使、ね。
まあ、オレもちらっとは思ったけど……
テンマも意外と夢見がちな奴だな。

「おや、疑ってる顔だな、新米くん?ほら、石板の話を思い出してよ。天の光、注ぐ地と、魔の闇、眠る地。幾つかある神話の中に在る、天の扉、魔の扉を差しているって、話しただろ?」

テンマに言われ、

「結局さ、その、天の扉、魔の扉ってなんなんだよ?」

先刻、テンマには授業で習わなかったか、と聞かれたが、オレは本当に歴史に興味なかったからなぁ…

「天の扉は天界に、魔の扉は魔界に繋がっている、と言われているね」
「天界と魔界って…それこそ神話の、お伽噺じゃねえか」
「そうだな」

呆れるオレに、テンマは頷き、

「でも、君が拾ったその羽のお陰で、希望が持てた。僕は、長年追い求めていたんだから」

天の光、注ぐ地
魔の闇、眠る地
人の無、標す地

その地に建つ宝、世界を繋ぐ鍵とならん

――…テンマは石板の内容を復唱する。

「追い求めて……もしかして、テンマはさ、天界と魔界が本当に存在すると思ってるのか?で、その石板の場所を長年探してた?」

オレが聞けば、テンマは頷いた。

「そうさ。まるで夢物語だろ?でも、天界や魔界が本当にあるのなら、僕は見てみたい。それが、僕が長年追い求めた夢だから」

そのテンマの言葉に、オレは圧倒された。
テンマは自称無職だが……なんだよ、やっぱ、トレジャーハンターを名乗れるじゃん。
まあ、本人は、
『目指すものがあるからと言って、皆が皆、トレジャーハンターなわけはないだろう?』
…って言ってたけどさ。
オレにはまだ、トレジャーハンターとして求めているものは何もない。
だから、少しだけ、テンマが羨ましいな。

「なーんか、オレ、テンマのこと、勘違いしてた」
「ん?出会って数時間なのに、僕の何を勘違いするんだい?」

そう言われて、散々オレのこととやかく言ってきたあんたが言うなよ!って、オレは思ったけど、口にはしなかった。

「なんて言うかさ、あんたは本気にしてないかもしれないけど……本当に、パートナーとして、一緒にトレジャーハンター出来たらなって、思った」
「……」

そんなオレをテンマは半眼で見る。
…また馬鹿にしてんのかよ……

「…はあ。君ってさ、本当に心配だよ。やっぱ、トレジャーハンターに向いてないね」
「ま、まだ言うか!」
「本当のことさ」

テンマはオレを指差し、

「トレジャーハンターは時として、誰かを欺き、欺かれることがある。君はきっと、誰も欺けない。逆に、欺かれる立場だろう。そうして、宝を横取りされたり、手柄を奪われたり、責任を押し付けられるかもしれない」
「うっ…」

ムカつくけど、なんか、否定はできなくて、オレは反論できない…
そして、テンマは大きくため息を吐き、

「まあ。気が向いたら。君みたいなのは頼りないからさ、気が向いたら、助けてあげるよ」
「……へ?」
「さあ、行くよ、新米くん。もうすぐ銅鉱山だ」
「……おっ、おい!それってさ、ちょっとでもパートナーになっていいかなって思ってるってことか!?」

しかし、テンマはもう何も答えず、すたすたと行ってしまうので、オレは慌てて追い掛けた。


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