商人カトウ

昔々は争いが絶えない世界だったそうで、魔物とかいう化け物も居たそうね。
天使とか魔族とか神様とか英雄とか、全ては〈神話〉の中のものだけど。

だから、昔の商人は武器をたくさん仕入れて売り捌いていたらしいわ。

今の商人が売るのは、旅人の為の携帯食料とか、必要な道具とか、その地域に見合った衣類とか。まあ、そんなもの。

私は今日も商人としての仕事を全う中。

今日は銅鉱山付近の街道。

この辺には、素人の旅人やトレジャーハンターが多く行き来するから、それなりに安いものを用意して売るの。

まあ、がめつい商人はこういう場所を好まないわ。
もっとお金を持った人達が行き来する場所へ張り込んでるから。

でも、私が目指す商人は、そんながめついものじゃない。
どんな人でも気軽に利用できる、皆に必要とされる商人になりたい。

まあ今後、生活だってあるし、お金に興味ないって言ったら嘘になるけど、お金に食われる商人にはなりたくないから。

あ、申し遅れました。
私はカトウ。まあ、カトウは名字なんだけどね。
学校を卒業したばかりで、今年18歳になるわ。
家が商売家業で、私の父が店主なの。だから、実家の仕事を手伝ってる。

父と母が店を構え、私は商人として各地へ売りに行く。
最初、両親には反対されたわ。

「年頃の女の子一人にそんな危険な仕事をさせられない。普通に、うちで店番をしてなさい」

…って。
でも、はっきり言って、うちの店はそんなに売れ行きが良くないの。

だったら、色んな場所へ毎日出向いて売りに行く方が、はっきり言って売れ行きはまだいい方だし、色んな人にうちの店を知ってもらえるし!

だから、私は商人に――…


…と。
鉱山へ向かう途中の人を発見!

「こんにちはー!カトウ商店でーす!今から洞窟へ向かうんですか?何か必要なものがあったら買って行きませんか?」

私が元気良く言えば、恐らく私とそんなに歳の変わらない男の人は、

「いや、別にないぜ。オレん家はすぐそこの町にあるし。ただ、銅を掘りに行くだけだし」

そう言った。
でもでも、ここで引き下がっては商人の名が泣く!

「でもでも、洞窟内でお腹が空いちゃうかもですよ!安くで携帯食料がありますよー」
「いや、今、食べて来たばっかだし。それに、ちょっと掘ってすぐ帰るから」

そう言った男の人は、どこかつまらなさそうな顔をしていた。

「あの…、トレジャーハンターさん、ですよね?」

私は確認するように聞く。

「…まあ、そうだけど。成り立てだし、無職みたいなもんだから、あんまトレジャーハンターって響きも好きじゃないんだよなぁ」

トレジャーハンターさんはそう言ってため息を吐く。

言葉の一つが引っ掛かった。そう、引っ掛かったのだ!

「トレジャーハンターは無職なんかじゃないですよ!」
「へ!?」

いきなり大声を上げた私に、トレジャーハンターさんは目を丸くする。

「誰だって最初は素人!それに、トレジャーハンターはちゃんと職業に登録されてるんですよ!」
「そっ、そうだけど、誰にだって出来るじゃん?」
「トレジャーハンターの魅力は、その人が何を宝にし、集めるかですよ!例えば、石ころだって、その人が宝だと思えば立派なお宝なんです!」

…と、職業マニュアルに書いていたことを、熱くなった私はトレジャーハンターさんに言い、

「だから、トレジャーハンターさん!あなたの職を無職なんて思わないで!銅を笑うものは銅に泣く!です!いつかきっと、あなたにとってのお宝がなんなのか見つかるはず!だから、トレジャーハンターって、とっても素敵な職業なんですよ」

私はそこまで言い切って、にっこりと笑う。

「あ、あぁ。そ、そっか。わかったよ、ありがと…」

トレジャーハンターさんはちょっとドン引きしているような感じだった。

「この商人カトウは旅人さん達の行くところに駆け付けます!だから、トレジャーハンターさん、頑張っていってらっしゃーい!」
「い、行ってきます…」

トレジャーハンターさんはなんだか疲れたような顔をして、銅鉱山へと歩いて行く…

私はそんな彼の背中に、

(がんばれ!新米トレジャーハンターさん!)

と、心の中でエールを送った。
そして…

「あー!結局、なんにも売ってなかった!!」

商人としての本題を思い出す。

(まあいいや。今日はまだ始まったばかり!頑張って商売するぞー!)

人のことを言ってる場合じゃないわね。
私だってまだ新米商人!


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