彼の隣にはいつも彼女が居た。
彼と彼女と自分は友達だった。
自分は彼のことが好きだった。
でも、彼と彼女の仲に割って入るつもりもなく、ただただ想っていた。
自分は、彼のことも彼女のことも大切だったから。
だから、彼と彼女の仲を見守り、自分は身を引いた。誰にもこの想いを知られることなく…
それから自分は引っ越しをして彼と彼女とは離れた地域に住み、連絡だけは時折取り合っていた。
そしてそれからしばらくして……
彼が死んだと彼女から連絡が来た。電話越しの彼女は震えた声で泣きじゃくっていて、自分はすぐに理解できず放心して…………
殺人事件だと彼女は言う。
慌てて自分はテレビを付けてニュースを見た。
そこには彼の名前と年齢が表示され、彼の経歴をニュースは報道していた…
自分はあの日、テレビの前で泣いた。
……その事件から数年経った今も、犯人は未だ、捕まっていない……
【日常打開】
燃えるー燃えるー熱いー魂ー今日も明日も戦い続けー♪
ガタンガタン――…
電車がホームに着き、聴いていた音楽を止めてイヤホンを耳から外した。
肩の辺りまで伸びた染めていない真っ黒な髪。
年齢は17歳。
ゆるいオレンジ色のパーカーにジーパン。
今から向かうは数年前まで暮らしていた生まれ故郷。
(住むところとバイトを探さなきゃなぁー)
少女はガクリと肩を落とし、そして電車に乗り込んだ。
少女の名前は茜川(あかねがわ)水香(みずか)。
小さい頃は水香の水を'すい'と呼ばれ、スイカだなんてあだ名で呼ばれていた。
父と母は水香が中学を卒業したと同時に水香を置いていきなり海外で仕事を始めるだなんて言い出して、水香一人を日本に置き去りにして行った。
時折来る連絡、毎月送られてくる生活費。
両親に、
「どこの国に居るの?なんの仕事なの?帰って来れないの?」
そう問い詰めてもどの質問もはぐらかされ、結局何一つ不明なまま。
中学を卒業して、高校一年の夏。
そんな両親からの連絡と生活費が急に途絶えた。
水香は何度も電話を繋ぐが誰も出ず……
両親がどこの国でなんの仕事をしているかもわからず、警察を頼った。
だが、警察の調査でも両親の居場所は掴めなかったのだ。
両親共に兄弟はおらず、お互いの祖母も他界していて、水香には頼れる身内が居なかった。
続けて高校に通いたかったが生活費が途絶えてはどうにも出来ず、高校一年の夏で退学し、アルバイトを始めた。
飲食店でせっせとアルバイト生活。自給自足の毎日。
両親の居場所も安否もわからないまま…
17歳になった水香はアルバイトを続けていたが、アルバイト代だけで毎月家賃を払うのがそろそろ厳しくなってきて……
思い浮かんだのが生まれ故郷。
今暮らしている地域よりも田舎だから家賃は安いはず……そう考えて生まれ故郷に下見に向かうところなのだ。あわよくばバイト先も見つけたい。
(こんな時に正義の味方が居て助けてくれたらいいのに…)
電車の中で水香は思う。
高校に通えず、バイト先でしか話し相手が居なかった水香の癒しはゲームや漫画と言う二次元だった。
暇があればゲームをして、ダメよダメよと思ってもついついゲームや漫画を買って節約の出来ない日々。
(頑張って安いマンションでも団地でも見つけて、給料の良いバイト先を見つけて、安定した生活を送れて、気兼ねなくゲームを買い漁れますように……って、はぁ。考えれば考えるほど変な話だよ…)
これは、茜川水香という少女の新生活の始まりであり、ちょっと変わった日常の始まりである。