「ヒロさん、あの。ジルク様の言葉の意味は‥‥」

城内から出た所で、ヒロの後ろを歩くディンがそう言い掛ければ、

「あ、ディンさん。なんかすみません。リーネのこと勝手に‥‥」
「いえ、リーネのことはいいんです。ただ、ジルク様の言葉の意味は、友人としてじゃなく‥‥」

言いにくそうなディンに、

「友人としてじゃなく?」

なんて。僅かに嬉しそうに言うヒロに、

(いや違う。この人はわかってて、わからないフリをしたんだ)

そうディンは気付いた。
でも、どうして?と言う表情をディンはする。
それを察したのか、ヒロは、

「ディンさんから生命を繋ぐ魔法の話を聞いた時から思っていたんです。命を懸け合っているジルク様とリーネは幸せになるべきだって。命を懸けたリーネの想いを、オレなんかが、いや、他の誰も‥‥踏みにじってはいけない」

そう言ったヒロの表情は、後悔も何もなくて、むしろ「これで良かったんだ」と、そんな清々しい顔をしていた。

「本当は‥‥ジルク様が異端者に対して抱いている思いの理由も聞きたかったけど、でも、彼の進む道を、オレなんかが止める権利はないから」

結局、肝心なことは何一つ聞けなかったが、自分が立ち入る場ではないと、ヒロは言う。

「そういえば、ディンさんはリーネの生い立ちは知ってます?」
「戦争で家族を亡くして、施設に連れられたと聞いてますが。ヒロさんはもしかして、リーネのことを前から知ってます?先日からそんな風に思えて」
「一部の人にしか言ったことないんですが‥‥オレも彼女と同じ施設に居たんですよ」

ヒロは、静かに昔話を始めた。


「たった一度話しただけだから、彼女の方はオレのことなんか当然印象にもなく覚えてるはずがないから。知り合いって程でもない。でも、施設での彼女を知ってるからこそ‥‥ますます彼女の幸せを奪うことは出来ない。彼女は優秀すぎるが故に、一番、幸せではなかったから」

それにディンは、

「ですが、ヒロさんの幸せは?」
「オレは‥‥ずっと幸せだった。学院で友達も出来て、ジルク様と友人になって。シハルにカイア、波瑠、ラサさん、異端者の皆と暮らせてとても幸せなんです。でもリーネにはきっと、ジルク様とディンさんしか居ない」

自分は彼女よりも、長い間幸せだったからーーと、ヒロは言う。

「そうですか‥‥間接的にヒロさんの生い立ちも聞いてしまいすみません」
「え?いいですって。リーネの場合は魔力が高かったから利用されそうになったけど‥‥オレの場合、よくある話でしょ?施設出身なんて」

笑ったまま言うヒロに、

「‥‥じゃあ僕も一つ。昨日聞いたんですが、シハルさんの記憶は戻っているそうですよ」
「え…?……は?えっ!?えぇえええぇーー!?」

唐突なディンの暴露に、ヒロは驚きの声を上げた。

ーーそうして昨日、シハルとした話をディンはヒロに伝える。

「そう、か‥‥あいつ、そんな前から記憶がちゃんと戻っていたのか‥‥」

ヒロはため息混じりに言って、

「でも、良かったんですか?シハルに内緒にしといてって言われたんでしょう?」
「ヒロさんだったら聞いても知らないフリしてくれると思って」
「‥‥」

それにヒロは腕を組み、

「‥‥でも、シハルがそんな罪悪感を抱く理由は‥‥シハルと波瑠は恋人だ、なんてあの日に言ったオレに原因がある。いつかはちゃんと解決しないとな‥‥」

ヒロはどうしていこうかと考え、それからディンに視線を移せば、彼はどこか浮かない表情をしていて、

「どうかしましたか?」
「いえ‥‥。そろそろ僕は戻りますね」
「あ、すみません。そうですね、オレもそろそろ帰らないと」

そう、話に区切りを付けた所で、

「いや、やっぱり言わないと」

ディンが言うので「何をです?」と、ヒロが不思議そうに尋ねれば、

「もしオルラド国と本当に戦争になって乗り切れても、近い将来きっと‥‥ジルク様とリーネは共に命を落とします」

真剣に、そんなことを言うディンの言葉に、ヒロは大きく目を見開かせて、

「え‥‥どうして‥‥」
「生命を繋ぐ魔法ですが‥‥命を繋ぐ事だけが対価であれば、それはまだ容易いものです。しかし、あの魔法は‥‥」

言いにくそうにするディンに、

「‥‥ディンさん。無理に言おうとしないで下さい‥‥でも一つだけ。二人には、幸せな未来は待っていない、と言うことですか?」

そう聞いたヒロに、ディンは重々しく頷いた。

「うまく言えずにすみません‥‥でも、近い将来にきっと‥‥言葉で説明するよりも、わかりますから」
「それが、何かはわかりません。でも、それに出来ることは‥‥オレ達がしてやれることはないのでしょうか」
「‥‥」

答えを出せないディンにヒロは拳を握り、

「なら、せめて今の間にでも‥‥何か幸せにしてやれることは‥‥」
「‥‥ジルク様の幸せは、ヒロさんが傍にいることだったのかもしれません。しかし、リーネの幸せはジルク様で‥‥」

ヒロはディンの言葉を聞きながら、それから自分の頭の中で考えて、

「‥‥ジルク様には悪いかもしれないけど、結婚式とかどうですかね?小さな‥‥そう、オレ達やシハル達だけで行う、二人の結婚式。ボロいけどちょうど教会はあるし、戦争になる前に‥‥」

そんなヒロの提案に、ディンは少しだけ驚いた顔をして、

「結婚式‥‥って。ヒロさんはそれでいいんですか?」
「ええ。構いません。それよりディンさんも、構いませんか?リーネのこと‥‥」
「それは、いいんですが‥‥何にせよ、まずは二人の同意が必要なんですけどね」

ため息を吐いたディンに、

「じゃあ、ディンさん、二人に話をしといてもらっていいですか?オレは一旦帰ってシハル達に話します。それから結果を連絡魔法で教えて下さい。それ次第でいろいろ準備をしますから!それじゃ!」

言うだけ言って走って行ってしまったヒロの背をただ呆然と見送って。

(妙なことになった。話すべきではなかっただろうか‥‥)

ディンは思う。
それから、ジルクとリーネに何をどう言ったらいいものか‥‥と、再びため息を吐いた。


ー32ー

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