チームのメンバーが全員揃えば、何時もなら騒がしい筈のアジトのリビングは妙に静かだ。
どれもこれも、俺がペリーコロ氏から預かった茶封筒の所為だが…。
「罠だったらどうするつもりだ…リゾット…。」
「罠も何も…俺達は与えられた任務をこなすまでだ…。」
そう答えると、プロシュートは眉を顰め、顔を近づけてきた。
「あのボスが俺達の事を信頼≠オてるなんてありえねぇ…何か裏がある筈だ…。」
「だろうな…だが、俺はこの任務に懸けてみたい。」
俺は言い切ると、奴を真っ直ぐ見つめる。迷いなんて無かった。この任務はプロシュートの言うとおり、何か裏があるんだろう。
しかし、この任務を遂行すれば、報酬は上がり、縄張りも与えられる。このチームの信頼≠取り戻すには十分だった。
プロシュートは俺の顔を暫く見つめ、大げさにため息を吐くと、好きにしろ。と言って背を向け、部屋の奥に消えていった。
ペッシは俺とプロシュートのを交互に見つめ、おどおどしていたが、部屋の奥から彼を呼ぶ怒声が聞こえると、体を震わせながらプロシュートの後を急いで追っていった。
「プロシュートの野郎は乗り気だなァ〜。おめぇらはどうするんだ?」
ホルマジオは辺りを見回しつつ、まるで他人事の用に呟く。
「ケッ、とうとう頭が逝っちまったか?」
「俺達がどれ程の屈辱を受けてきたか…忘れたのか?リゾット…。」
ソルベとジェラートが噛み付いて来た。彼らは俺がリーダーになる前からこのチームに配属されている。ボスに対する恨みはこのチームの中で一番強い。
俺が口を開こうとした瞬間、ガシャーン!っとガラスの割れる音が聞こえた。
ギアッチョだ。
「ったくよォ〜!ネチネチ女みてぇに文句を言いやがって!!!この任務がチャンスかもしれねぇだろうがぁ!!!」
そうギアッチョは叫ぶと近くにあったテーブルを蹴り飛ばし、ズカズカとソルベとジェラートの前に出る。
二人の身体がこわばり、他のメンバーも身構える。
「この任務でよォ!ボスを含めて俺達の事を馬鹿にしてた奴らを見返すチャンスじゃねぇかッ!!!やるしかねぇだろうがッ!!グチグチ言ってんじゃねぇ!!」
その言葉を聞いた途端、この場にいたメンバー全員が息をのむ。
チャンス…俺達、暗殺チームにはそういったチャンスには、一切恵まれなかった。
おそらく、今回を逃せば一生こんなチャンスが来ない気がする。
「ギアッチョの言うとおりだ…俺達はどっちにしろ最終的に始末されるのなら…馬鹿正直にやった方が良いと思う。」
苦笑いしつつイルーゾォが言うと、ホルマジオが頬杖をしつつ「ったく、しょ〜うがねぇなぁ〜」と何時もの口癖を呟いていた。
「ギアッチョもたまには良い事を言うねー!」と言いながらメローネがギアッチョに飛び掛かるも、勢い良く殴り飛ばされている。
ソルベとジェラートも不満そうな顔をしていたが「今回だけだからな!」と言ってプロシュート達同様、任務の支度をしに二人は自室に戻っていった。
イルーゾォとホルマジオも、早速、渡された資料を睨みつけながら任務の作戦を立てている。
「ギアッチョ…」
「何だよ。リーダー…。」
「お前はコレを片付けてからだ。」
俺は痙攣しているメローネと破損したテーブル、割れたガラスコップの破片が散らばっている処を指差した。


ギアッチョがまた癇癪を起して違う物を壊したのは別の話である。


*


「…で、縄張りと報酬の話はさて置き…この請求書は何デスカ???」


その紙を見せた瞬間、滅多に表情を崩さないであろうリゾットがあからさまに顔を歪め、他のメンバーは私から顔を逸らし、アジトに気まずい空気が流れる。
「フッフッフッ、この紙の所為で危うく今回の話がパーになる処でしたよ…ねぇ、ギアッチョさん…。」
そう言うと、私はさりげなくスタンドを使いギアッチョの背後に回る。
時が『飛んだ』なんて事が分からないメンバー達にとっては、私が瞬間移動したように見えただろう。
ギアッチョがピクリと肩を震わせる。私はギアッチョの肩に手を置き、耳元で囁く。
「物に当たりたい気持ちも分かるけどさぁ〜状況考えてやれよなァ…コッチは五月蠅い小姑を相手して、やっと縄張り奪えたんだよォ…それが全部無駄になったかもしれないんだよ???わかってるの???ねぇ???ねぇ???返事は???」
漫画ではギャンギャン吼えて癇癪起こしてたギアッチョさんが小声で「本当にすいませんでした。以後、気よ付けます。」なんて震えながら言ってるよ!!!それも敬語でだぜ!!感動した!!!
後、心のどこかで、『小姑だとッ!ドッピオ!私をそんな目で…』なんて声が聞こえた気がしたけど、気にしない気にしない。
「まぁ、今回は何とかなったから大丈夫ですけど…次は有りませんからね…。」
そう言うと、さっきまでピンッと張りつめていた空気が緩む。
てか、そんな事より本題を…縄張りと報酬の話をしなければ…。
私は、茶封筒の中から地図を取り出し、床に地図を広げる。
何故、テーブルが無いのかは粗方分かっているので、何も言わない。いや、ツッコまない。
「…えぇっと、縄張りと報酬の話ですが、報酬は今までの6倍、縄張りはこの地図に書いてある赤い線で囲まれてる処までです。」
おぉっと、小さく歓声が上がる。どうやら、大丈夫みたいだ。
縄張りも報酬もそうだが、ボスから粘りに粘って奪っ…いや、許可されたものだし、でも、一つ問題があるんだよねぇ〜。
「しかし、他の小規模マフィアの縄張りと重なっています。このマフィアを潰さなければ正確には金が入って来ません。」
クッソォ…、ボスの野郎…捻くれてやがる。まぁ、与えられたから良しとするか。
何か文句を言われるかとか舌打ちとかされるかと思って身構えたが、まったくそんな事はなかった。
反対に奴らはニヤニヤ気味が悪いぐらい笑っている。
「アレ…私…何か変な事…言いましたっけ?」
「いいや、何も変な事は言ってない…この報酬と縄張りに文句はない。」
「ふっ、そうですか。伝えることは伝えたので…私はこれで…」
暗殺チームのアジトから去ろうとした瞬間、待ってくれ!っとリゾットに呼び止められる。
「一つ頼みたい事があるんだが…」
「頼みたい事?私に出来ることがなら、大丈夫ですが…。」
「…俺達に、あの任務を回してくれた参謀に伝えて欲しい。チャンスを与えてくれて有難うと…。」
リゾットさん、その参謀は実は目の前に居るんだぜ…。どうやら喜んでくれているようだから、良かった、良かった。
レクイエムフラグから少し…一歩だけ遠ざかった気がする…フフッ…どっかの殺人鬼じゃないが今夜はゆっくり眠れるぞ。
「ンフフ!どういたしまして!!!ボスを説得するのは至難の業でしたからねぇ…これからも、頑張ってくださいね!では!!」
私はSPWのようにクールに去ろうとしたが…それは、無理だったッ!やっぱり、ジョジョキャラって、勘が鋭いな。
プロシュートの兄貴に思いっきり肩を掴まれたよ。振り返れば、物凄い形相の…何とも名状しがたい顔をした兄貴の顔面が目の前にある。
普通のシニョリーナなら勘違いして一目ぼれだろうが…嗚呼、どうやって、切り抜けよう…。
「…おい、……おい…ちょっと待て…シニョリーナ…さっきからそうだが…その言葉…まるで、あんたが参謀みたいじゃあーねぇか…どういう事か…説明してもらうぜ…。」
何か、背後からゴゴゴゴゴゴゴって効果音が聞こえてくる…。
別に言っても大丈夫だけど、ボスが五月蠅そうだなぁ〜五月蠅いな〜…でも、ここでプロシュートの兄貴から逃げきれそうに無いし…面倒くさいから言うか…。
「………えぇ、まぁ、そうですけど…何か問題でも?」



暗殺チームのアジトに絶叫が響いたのは言うまでもない。


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