鈍りを張ったような曇り空があたり一面に広がっており、その隙間から夕陽が零れ落ちるかのように赤色が空に滲んでいく。

何時もの屋敷、何時もの光景、何時もの日常、その筈なのに妙な違和感があるのは、何故だろう?強いて言うなら、兄と父が戦争でいない事と雨が今にも振り出しそうだからだろうか?違う、これは…複数のチャクラ…かなりの人数が里の方に押し寄せてる…!うちはの忍びではない、別の忍びが…100人かそれぐらいいるんじゃないか?
母にそのことを告げると、すぐさま屋敷を飛び出して行った。そして、数分ぐらいたってから母は戻って来て私にこう言った。
「イズナ!貴女は里の避難所に非戦闘員を連れて隠れていないさい!」
「嫌だよ!私は戦えるもん!」
「イズナ、我がまま言わないで、それに貴女が避難所に居る皆を守るのよ。」
「だったら、お母さんも一緒に行くんでしょ?!」
「いえ、私はうちはの忍びです。里を守るために戦うわ。」
そんな、襲われるのを分かっていて見てろと!?嫌だ!これじゃあ、母さんが殺されてしまうかもしれない。そんなの嫌だ!てか、マダラ兄さん達がいない時に襲ってくるって、卑劣すぎるだろ!確かに里を守ってる忍びは居るが、戦争の所為で数が少なく心許無い。けど、これ以上、言っても母さんは食い下がらないだろうし…。
「わかった…避難所まで皆を守るよ。」
「ええ、頼むわ。この里を…皆を任せたわ。」
そう言って母は笑って去って行った。
もし、戦いが長引けば私も加勢しようと決めた。大丈夫、母さんは強いんだ。死なない。絶対に母さんは死なないと強く自分に言い聞かせて、母に言われたとおり戦闘力がない子供や女性を避難させた。
その刹那、鈍い音が響き、地面が揺れ、誰かの悲鳴が聞こえる。
ついに、始まったのか…戦争が…。私はクナイを握り締め、誰かの忠告を聞かずに避難所から飛び出した。
こういう事が初めてでは無い。腐ってもこの世界は戦国時代。乱取りなんてものは、息をするのと同じように起こっている。主戦力が居ない時に弱い子供や女を狙って潰しに来るのだ。やって来る奴らは、女を強姦したり、子供を捕まえて人身売買して金を稼ごうとしたり、憎しみでその一族を消し去ろうとするのが大半だろう。
何故、うちはを襲ったのかはどうでも良い。そんな奴らから一族を守らなければ…!
そう思って、さっそく里の中を走り抜けていると、うちはでは無い何処かの忍びと一族の者が戦っている。忍びの力はそんなには無いが数が多過ぎる!兄さん達が帰って来るまでに終わらさなければ!兄さん達が帰って来て里が無いとかそんな事には絶対にさせない!
そんな時だった。ふと道の角を曲がった先に母が居たのだ。大人数の敵の忍び相手に応戦している。母がいくら強いとはいえ、大人数を相手にするのは辛いだろう。それに、相手の忍びはどうやら手練れのようだった。
直様、母を援護するため駆け寄ろうとした瞬間、母の体に一つの刀が貫いた。その瞬間はまるで時がゆっくりと動いているように、次々と母の体に槍やクナイや刀が突き刺さっていく。
戦争の熱に浮かされ狂った男の笑う声が、母の体に突き刺さる肉の音が、色々な音が、雑音が聞こえるーーー。

私は叫び声をあげ怒りに任せ、道中、拾った刀で忍びの一人を斬りつけた。
鮮血が散るよりもその臭いに鼻が刺激されたが、それよりも先に、相手の胸に食い込んだ刀の感触が手に伝わって来た。普通ならば気持ち悪く恐ろしく感じるが、戦争の熱に浮かされ、憎しみしか無い私には何も感じなかった。
「ヒィ!何だこの餓ッ…!?」
そんな悲鳴も私にとっては唯の雑音でしかない。私は傍若無人に刀を振り回し、忍び達を斬り倒していった。血飛沫を真っ向から受けても怯まず、寧ろ血を浴びれば浴びる程、私は強くなって行く気がした。
雑音しか聞こえないその狭間で、私はウタを聞いた。誰が歌っているかは知らない。

けど、その歌は母の子守唄のように心地よかった。




*




「何だよ…コレッ!」


マダラの眼下に広がる光景は信じ難いモノだった。
慣れ親しんだ里は変わり果て、ぼろぼろの家屋や怪我人の呻き声で包まれ、煤と血の臭いがその場に充満している。
まるで戦場のようだ。その光景を見た父はぼそり「間に合いませんでしたか…。」と険しい顔して呟いた。
そんなモノよりマダラの頭に浮かんだのは、自分の妹とであるイズナと母の顔だった。
マダラは近くにいた怪我人の1人に直様話し掛ける。
「おい!あんた!俺の妹は見なかったか!?イズナは!母さんは!」
「………イズナちゃんと頭領の奥さんなら…向こうに…。」
そう言って怪我人の指差した先はーーー死体安置所として使われる広い講堂だった。
嘘だ!嘘に決まってる!そう思って、一目散にマダラは講堂の方へ走り出す。絶対に妹だけは守ると小さい頃から誓って来たのに!
イズナを失ったらオレは…!
そうこうしている内に、講堂の前まで辿り着き、震える手で扉をゆっくりと開く。
中から啜り泣く声や微かに血の臭いが漂っている。恐る恐る覗いてみると、並べられている柩の一つに縋り付く1人の小さな少女の姿が見えた。顔は見えないものの、瞬間的にイズナだと分かった。
「・・・イズナ!!!無事だったのか?!」
そう叫び駆け寄ると、イズナはゆっくりとこちらに顔をあげた。顔は涙と返り血でグチャグチャになってる。
「兄さん…私、私!」
「イズナ…!何があった…!」
「お母さんを、守れなかったッ…!」
そう言うと、イズナは俺に抱き着き、胸の中で声を出して泣いた。俺は唯、イズナを抱きしめて、撫でてやることしか出来ない。
俺がもっと早く駆けつけて居れば、こんな事にはならなかったかもしれない。イズナや母さんがこんな目に…!
自分の無力感と母を失った悲しみが体中に駆け巡る。
絶対に、もう二度とこんな目に遭わないよう、俺が強くならなければと…。
先に逝ってしまった兄達の代わりに、イズナを、一族を守ると、改めて心に誓った。



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