包みこむような雨が音もなく細かく降る。

普段なら聞こえるような草木のざわめきも、小鳥たちのさえずりも、何も、何も聞こえなかった。ただ聞こえるのは、誰かが啜り泣く声とザクザクと地面を掘る音、それと、むせ返るような血なまぐさい臭いだけだ。
掘られた穴の中にうちはの紋が描かれた柩がどんどん入れられていく。母、父、兄であるマダラはその光景を黙って見ていた。しかし、その顔は悲痛な色が現れている。
私にとっては祖父である母の父が死んだそうだ。うちはの中でも強い忍びの一人だったそうだ。戦っている雄姿を見たわけじゃないので良く分からないが、父のタジマ同様、厳つい顔をした男だったのを覚えている。そして、私の事を目に入れるぐらい可愛がってくれたのも覚えてる。その顔が不気味だった事も…。赤ん坊の私を抱いている母の腕は震えている。顔は能面の様に固まっているが、全てを隠し通せる訳じゃないようだ。
そんな母を見て、ひどくやるせない心持ちになる。思いっきり泣けば良いのにと思うのだが、周りの人間が許さないのだ。泣けば死んだ人間に申し訳ないそうだ。
私は泣きたかった、だが泣けなかった。赤ん坊だから泣いたって大目に見てもらえるだろうが泣けなかった。

胸の中ががらんどうになり得も言われぬこの悲しみは一体何なんだろう。



*



年月は過ぎ、私はやっと一人で立って歩けるようになるぐらいにまで成長した。


その間、色々と苦労した。赤ん坊の頃は寝て泣くのが仕事だから何もすることが無いので、つまんなくて死にそうだったし…でもタジマお父さんが忍びについて語ってくれたりしてタメになったよ…本当…。でも、ヘニョヘニョ顔になるのは止めてくれ。
後、マダラ兄さんも私をあやしながら呪文みたいに、絶対にお前だけは守るからなってのを連呼しなくてどうぞ。でも、まだ純粋なマダラ兄さんは可愛いよ。前世の友人が言ってたクレイジーヤンデレサイコホモにならない様に祈ってる。
そんなこんなで私が三歳になった頃、父も兄も戦場に行ってしまい屋敷には母と私しか居なかった時。朝起きて、普通に洗面所で顔を洗っている時にふと鏡を見たら瞳が赤くなっていたのだ。うちは一族特有の血継限界…そう、写輪眼を開眼していた。私の写輪眼はすでに基本巴になっており、非常に驚いた。写輪眼と言えば、卑劣様が語っていたが大きな愛の喪失とかもがき苦しんだ時に現れるらしい。愛の喪失なんて結構な親族が死んだから思い浮かばないな…しいて言うなら、祖父が死んだ時だろうか?そんな事よりも、この瞳はどうしようか…とりあえず、母に報告しよう。
「ねぇ、おかあさま。」
「どうしたの?イズナ?」
「わたしのおめめが赤いの。びょうきなのかな?」
私はそう言って母に写輪眼を見せた。
子供だから上手く発音ができないし、精神はもろ大人だからバレないように上手く子供っぽく可愛く演技してるけど、大丈夫かな?
「その眼を…その眼を父や兄、他の一族の者には見せてはいけないわ!」
私の眼を見た瞬間、母の顔はさっきまでの穏やかな表情とは打って変わり、私の小さな肩をガッチリ掴んで鬼気迫る顔で叫んだ。
お母さん、一体どうしたんや。もの凄く怖い。
「お、おかあさま、どうしたの?」
「イズナ、安心して、その眼は病気じゃないわ。ちょっと、お散歩しましょ?」
そう母は早口に言って、私の手を強く引っ張りながら里はずれの場所に連れてこられた。
あたりは鬱蒼とした木々のざわめきしか聞こえない。人の気配も何となくだが私達以外は存在しないだろう。母は周りに人が居ないか確認して、小声で話し始めた。
「貴女のその眼は、代々この一族に伝わる写輪眼と言う特別なものなの。病気じゃないから、安心しなさいね。」
「うん、わかった。でも、どうして、おにぃさまとおとうさまに見せちゃいけないの?」
「それは…。」
そう母は口ごもったものの、覚悟を決めたのか、淡々とうちは一族の事を語り始めた。
外の情勢についても…一応、私は三歳児だから噛み砕いた説明をされた。
母曰く、私が写輪眼を使えるとなれば間違いなく戦場に駆り出されるだろうと、どんなに幼かろうと女だろうと関係なく。戦場に出たとしても、真っ先に標的にされるとも言った。幼いころから写輪眼が使えるとなれば、将来、敵にとっては悪魔のような存在になる可能性が高いため、真っ先に潰されると…。母は私に普通の女の子として生きて欲しいと涙を眼に浮かべながら言った、幼い私が死ぬ姿を見たくないと…。
「けどね、イズナ…その瞳をちゃんと使う事が出来れば、身を守る事が出来る…。もしもの時のために…貴女に忍術を教えるわ。」

母さん、私を普通の女の子として育ててくれないんですか?まぁ、忍術を覚えたら色々便利だからやるか。



*




母からはまずアカデミーで習いそうな基本を叩きこまれた。


正直言って、私がリアル三歳だったら頭がパンクしそうな話題ばかりである。
五大性質変化やら形態変化、チャクラのコントロールについて色々と細かく教えられた。急にこんな事を教えるなんて…戦国時代は本当に切迫してるんだなぁ…。
母にナルト達がやっていたような木登り修行をするように言われた。とりあえず印を結びチャクラを練って、木に足をつけて登ってみる。これがなんと意外とスイスイ登れるのだ。それを見た母は目を真ん丸にして吃驚していた。母曰く、マダラ兄さんはかなり苦戦していたそうである。一応、何度か印を結ばないで登った後、今度は水の上を歩く様に言われ、歩いたら普通に歩けた。物凄く恐ろしいぐらいチャクラコントロール出来ているのですが、如何に…コレ何かのフラグじゃないよね?死亡フラグはお断りだぞ。
「イズナ…貴女…。」
「お、おかあさま。」
「流石、私たちの子供だわ!この調子で教えていくわよ!」
そう、母は目をキラキラ輝かせているのですが…さっきの涙目どこいったし…。
それからと言うもの、忍術が使えても体力が無かったら意味が無いので、散歩と評して、ランニングや腕立て伏せ、色々と体を鍛えさせられた。それも、父と兄がいない時や里外れの場所で…。
勿論、手裏剣やらクナイも大人の手練れ並みに扱えるようになったし、体術だって相手は母だが、母も子供を産む前は結構な忍者だったそうで、お墨付きをもらえるぐらいまで強くなった。忍術だって、うちは一族の人間は基本的に火遁が得意なので、サスケェやイタチさんが使ってた火遁・豪火球の術も使える。そんな修行をして、しばらくたってからだろうか。
兄であるマダラに非常に怪しまれている。
「イズナ…。この頃、母さんと一緒に散歩行ってるよな。」
「うん、そうだけど…どうかしたの?にいさん?」
「長くないか?」
「???」
「散歩する時間が長くないかって聞いてるんだ。どうして、あんなに長いんだよ?」
一瞬、ナニが長いのか考えちまったぜ。てか、疑われてるよ。
「とおくまで、さんぽしてるから?」
「遠くってどの辺りだ?」
「うーん?とおーく!!!」
「・・・・・。」
そう元気よく叫んだものの、マダラ兄さんは疑わしそうな目で私を見ていたが、オレが聞いたのが馬鹿だったよっと言って、私をヒョイと持ち上げ、膝の上に載せてギュウギュウ抱きしめたり、くすぐったり、撫で始めた。この年だから良いけど、大人だったら完全にアッチだよな。
「にいさん!くすぐったいよ!」
「ハハ、戦の所為で滅多に一緒に居られねェんだ!この時に触っとかないと損だろ!」


そんな様子を微笑ましげに両親から見守られたなんて、その時の私達は知らない。


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